有馬 晶子
本研究の目的は、第一にCarstensenの社会情緒的選択性理論(SST)の日本への適用、第二に高齢期に訪れる社会的活動の変化が高齢者のインターネットの利用に与える影響をSSTの枠組みの中において把握することであった。社会的相互作用の目的の発達段階による違いが、どのようにコミュニケーションメディアもしくは、情報メディアとしてとらえた場合のインターネットに対する人々の態度を説明するかという観点から取り組んだ。
本研究においては、二つの調査を行った。調査1の対象は40歳以上の世田谷区住民1250人で、調査2の対象は、3つのシニア向けパソコンクラブの参加者であった。調査方法は、いずれも質問紙を送付する郵送調査で行った。
調査1の結果、SSTを適用した仮説のうち、加齢に伴い、または、健康状態が悪い人は社会的相互作用の目的が情動の調節を重視するように変化することが支持されなかった。また、社会的相互作用の目的として、情動の調節を重視しているひとは、そうでない人よりもネットワークサイズが小さいことを検証した。その上で、家族・親戚のネットワークは社会的相互作用の目的によっては異ならない、SSTとは違って、情動の調節を重視しているひとは、そうでない人よりも親しい友人のネットワークも小さい、という結果が見られた。なお、実際のネットワークだけでなく、ネットワーク拡大欲も社会的相互作用の目的によって差があるということが分かった。社会的相互作用の目的が発達的に変化するということを捉えられなかったため、SSTの検証としては、失敗した。
さらに調査1では、社会的相互作用の目的として情動の調節を重視する人は、インターネットを必要ないと判断しがちであり、利用もしていないということがわかった。また、高齢期にはインターネットに関するサポートの量が減る傾向があり、そのようなことが、情動の調節を重視する人や、高齢者がインターネットを利用しにくい原因ではないかと考えられた。
調査2では、インターネットを始めたきっかけが社会的相互作用の目的により異なるかどうかを調べたところ、社会的相互作用の目的は説明する変数ではなかった。次にインターネットを始めたときの目的について、社会的相互作用の目的が何であっても、情報を得ることを目的とするかどうかには影響がないということを示した。いっぽうで、インターネットを使い始めたときに、情動の調節を重視する人が、新しい知り合いを作ったり、いろいろな人と意見交換したりすることを目的とはしないかを検討したところ、意見交換に関してのみ、傾向が見られた。結果として、社会的相互作用の目的が、インターネットを始めたきっかけや目的には影響を持たなかった。また、電子メールについて、社会的相互作用の目的により、受け取る電子メールの数が異なる、または、やりとりする電子メールの種類が異なる、という仮説は支持されなかった。同様に社会的相互作用の目的によって電子メールをやりとりする相手の人数や属性が異なるという仮説も支持されなかった。
よって高齢者ユーザーサンプルに対して、社会的相互作用の目的は、インターネットの利用の仕方を説明する変数とはならなかったが、その原因としては、サンプルがシニア向けのパソコンクラブのメンバーであり、どのクラブに所属しているかが、影響の強い変数となる場合もあったことが考えられた。
また、「老化防止」という目的でもインターネットを使うことは、情報メディアでも、コミュニケーションメディアでもないインターネットの機能を高齢者が見いだしていることを示していた。