馬場優望
日本の家族構造は、近年、三世代・四世代同居の拡大家族から、夫婦と子からなる核家族へと急速に変化してきている。この変化とともに起こったのが少子化であり、この2つの変化から、世帯あたりの家族構成員の数は著しく減少した。家族構成員の減少は、家族内人間関係を単純化させ、家族内における他者間の葛藤観察や対立・共同などの関係づくりの経験が難しくなる。子どもが社会化の過程で必要とする、家族集団における成員間のコミュニケーションの回路は、親子間の双方向に限られるよりは、親子・兄弟・祖父母と孫といった多岐に渡るものが用意されているのが望ましい。しかし、核家族においては、この回路が親子・兄弟だけに限られてしまう。これにより、親子間・兄弟間の回路がより確実なものである必要性が生じるが、子守の経験の乏しい若い親たち、子育ての助言者としての祖父母のいない核家族においては、それも難しく、少子化とも相まって、過保護・過干渉・母子密着などの問題が生じることも珍しくない。
今回の研究では、核家族化・少子化といった家族構成員の減少が子供の社会性の発達に与える影響と、子どもの頃の家族構造がソーシャルスキルを発達させるであろう他の要因に与える影響について考えることを目的とした。
茅ケ崎市選挙人名簿から45歳以上60歳以下という条件のもと、確率比例抽出法によって797名を選び郵送調査を行った。回収率は54.8%であった(429/783)。
家族構成員の減少を、核家族による祖父母の不在と少子化による兄弟姉妹の不在という2つの要因に分けて、ソーシャルスキルに与える影響について分析した。
まず、核家族化による祖父母の不在についてであるが、子供の頃の祖父母の有無とソーシャルスキルとの直接的な関係は認められなかった。しかし、ソーシャルスキルに影響を与えている子供の頃の家族以外の大人とのつきあいと子供の頃の祖父母の有無の相関が高いことから、子供の頃の祖父母の有無がソーシャルスキルに間接的に影響しているということが言えるのではないだろうか。核家族化が進み親族や近隣などとのつきあいも減る傾向にある現在、家族内における子どもの社会性の十分な発達はますます難しい状況になっていくのではないだろうか。
次に、少子化による兄弟姉妹の不在についてであるが、今回の調査では、兄弟姉妹の数がソーシャルスキルに直接与える影響、兄弟姉妹の数がソーシャルスキルの発達に関係すると考えられるほかの要因に与える影響ともに認められなかった。これは、独立変数が兄弟姉妹の数であったことが原因だと考えられる。本来は、兄弟姉妹の有無、つまり一人っ子と兄弟姉妹のいる人とを比べたかったのであるが、人数の偏りが大きすぎてそのような分析ができなかった。注目すべきなのは、子どもの頃の友達の多さがソーシャルスキルに大きく影響している点である。今回の調査では、兄弟姉妹の不在によって友達関係をつくることが難しくなるという結果を導くことはできなかったが、これまでの研究によると、兄弟姉妹の存在は大人との関係から子ども同士の関係に入っていくための橋渡し敵役割を果たしており、兄弟姉妹の不在によって友達関係をつくるにあたり困難が生じることがあるということが報告されている。これらを考え合わせると、兄弟姉妹の不在によって友達関係をうまくつくれず、ソーシャルスキルの十分な発達が難しくなるという危惧が生じてくるのではないだろうか。
今回の研究の問題点としては、調査対象者の年齢の高さと、調査対象者の兄弟姉妹の有無に大きな偏りがあったことがあげられる。ソーシャルスキルの発達に影響を与える干渉変数をうまく統制することができなかったし、核家族で育った人、兄弟姉妹のいない一人っ子が予想以上に少なかったために十分な分析が行えなかった。
今回の研究では仮説は支持されなかったが、核家族化・少子化とそれに伴う家族の孤立化はこれからも続いていくと予想され、そのような中で、子どもの社会化には、今まで以上に家族関係や親族・近隣との関係が大切になっていくのではないだろうか。最近では、子どもの頃に少数の人としかつきあっていなかったことから、柔軟性や許容性を身につけることができず、他者否定傾向を示す人が増えてきているという報告もなされている(三沢、1977)。多くの人に囲まれて育つ中で、優しい人や厳しい人、おおざっぱな人や細かい人など、人にはそれぞれ何らかの偏りがあるということを自然に理解することが、孤立化した核家族の中では非常に難しいのである。そこで必要になってくるのが、家族間の協力や家族と家族を結ぶ社会的援助なのではないだろうか。
核家族・少子家族の中での子どもの社会性の発達、子育てに対するソーシャルサポートはこれからも考えていかなければならない重要な問題であろう。