性別と民族のステレオタイプに関するクロスカテゴリー化の研究

矢野円郁

 私たちは、さまざまな社会的カテゴリー、たとえば性別(男性/女性)や民族(日本人・中国人・イギリス人…)や職業(医者・弁護士…)や宗教(仏教・キリスト教…)などによって自己や他者を分類して認識しており、それぞれのカテゴリーに対して、ある一定のイメージ(ステレオタイプ)、たとえば「日本人は集団主義的で、アメリカ人は個人主義的だ」など、を持っている場合がある。そのようなステレオタイプが形成されるメカニズムには、カテゴリー化の過程が大きくかかわっている。これまでステレオタイプ研究は数多くなされてきたが、その多くはただ一つの属性、たとえば性別(男性か女性か)という属性によってカテゴリー化したものであった。しかし、現実にある多くの人々の集団はたった一つの属性のみによって分類されるよりも、複数の属性によって分類されている場合がほとんどである。そこで、複数の属性でカテゴリー化した場合の研究、たとえば性別と人種(白人男性、白人女性、黒人男性、黒人女性など)のカテゴリー化といったクロスカテゴリー化の研究が行われるようになってきた。今回は、性別(男性・女性)と民族(日本人・イギリス人・中国人)というカテゴリーを用いて、クロスカテゴリー化の探索的な調査を行った。

 本研究では、性別のみあるいは民族のみのシングルカテゴリーに対するステレオタイプと性別と民族が組み合わさったクロスカテゴリーに対するステレオタイプとの関係について調べることを目的として探索的な調査を行った。調査方法は、大学生を被験者として集団で質問紙に回答してもらった。その結果、判断する民族が自民族である日本人を含む場合と他民族だけである場合とでは、クロスカテゴリー化の効果のあらわれ方が異なることが示された。他民族だけの場合は、クロスカテゴリーの判断に先立ってシングルカテゴリーの判断をさせることによって、クロスカテゴリーのイメージがよりネガティブになるというクロスカテゴリー化の効果が示された。これは、集団サイズの異なる2つの集団を提示すると、より小さいほうの集団では好ましくない成員が目立つという幻相関によるものと考えられる。一方、自民族を含む場合はこのようなクロスカテゴリーの効果が現れなかった。この自民族を含む場合と含まない場合の違いについては、今後さらに検討を重ねる必要がある。また、中国人・中国人男性・中国人女性という同一のカテゴリーに対する判断であっても、条件、すなわち、クロスカテゴリーとシングルカテゴリーのどちらを先に判断するかという質問項目の順序や、ともに判断する民族が日本人かイギリス人かという違いによって、そのイメージが異なるということが示された。日本人にとって一般的にポジティブなイメージのイギリス人とともに一般的にネガティブなイメージの中国人を判断した場合、対比的にネガティブなイメージを生成しやすいが、先により細分化されたクロスカテゴリーを先に判断すると、大きな民族という単位のイメージが利用されにくくなり、その結果ネガティブなイメージが緩和されるというクロスカテゴリーの効果が出たと考えられる。一方、日本人と中国人をともに判断した場合、中国人のイメージが中庸な値となったが、これは中国人を「外国人」としてよりも日本人と同じ「アジア人」としてとらえる傾向が強まってきたためと考えられる。