社会的ネットワーク分析によるCMC空間についての研究

小林哲郎
 
近年の情報技術の発達により、コンピュータネットワークを介したコミュニケーション(Computer-Mediated Communication : CMC)は非常に活発になってきている。本研究は従来のコメントチェーンに基づくCMC研究とは異なり、コミュニケーションの「場」をノード、参加者をタイと捉えた柴内(1999)の研究をベースに、オンライン上の心理・行動を説明するモデルの改良を目的としている。
 データは1995年にニフティ・サーブの会員を対象に行われたサンプリング郵送調査のものを用いた。ネットワークの構造を把握するために群平均法による階層的クラスター分析及びK-means法による非階層的クラスター分析を用いて、フォーラムの分類を行った。その結果から、フォーラムに多重加入している回答者が類似性の高いフォーラムを繋ぐ機能を果たしているのか、それとも類似性の低いフォーラムを繋ぐ機能を果たしているのかを、タイ特性として指標化した。類似性の低いフォーラム間を繋ぐ機能を果たしている参加者は、Granovetter(1973)のいうところの「弱い紐帯」としての機能を果たしていると考えられる。
 基底的個人特性によってタイ特性を予測したところ、情報欲求が影響力をもっていることがわかった。情報欲求が強いほど類似性の低いフォーラムを繋ぐタイ特性を持つ。
 さらに、タイ特性によってオンライン上の心理・行動を予測した。その主要な結果を以下にまとめる。
1. 類似性の高いタイ特性が強いほど、対人ストレスは増加する
2. 類似性の低いタイ特性が強いほど、メッセージストレスは増加する
3. 類似性の低いタイ特性が強いほど、情報オーバーロードストレスは低減する

 さらに通信頻度・情報流通量と発言の有無についての分析により、以下のことが示唆された。
4. ネットワーク上で「弱い紐帯」の機能を果たしているものは、活発に発言行動を行うことによって情報流通を担い、結果として自身の情報負荷を軽減している。
これは、池田(1997)の知見とも一致するものである。
また、よりミクロなレベルでのego-centricなネットワークを調べるため、ネット上での友人の数とCMCの捉え方について分析を行った。
5. 類似性の低いタイ特性が強いほど、ネット上での友人数は多い
6. 類似性の高いタイ特性が強いほど、自分の本名や顔を知っている(ネット上の)友人数が多い
 5.と6.の結果から、類似性の高いタイ特性が強い回答者と類似性の低いタイ特性が強い回答者との間に、CMCによる対人ネットワーク形成の捉え方の違いが示唆されたため、これを検討した。
7. 類似性の低いタイ特性が強いほど、「パソコン通信は、まったく新しい関心や人間関係を自分にもたらしている」と捉える傾向がある。
8. 類似性の高いタイ特性が強いほど、「パソコン通信は、いままでの関心や人付き合いを補強する形で役立っている」と捉える傾向がある。
今後の課題としては、ネットワーク構造からの説明に加えて、コミュニケーションの中身まで踏み込んだ内容分析による詳細な検討が必要である。