逸脱に至る心理とその抑止要因に関する考察

光信 陽一朗

 今日の日本社会において、刑法犯の認知件数は年々増加している。そのような状況の下で、日本の犯罪抑止は法律による制裁に依拠したものとなっている。しかし、この法律による犯罪の抑止には本当に効果があるのだろうか。法律による制裁よりも、より効果的な抑止要因が存在するのではないか。想定される他の抑止要因としては、道徳心などの内的規範、友人に軽蔑されるなどの社会的制裁、自分の周囲に犯罪・逸脱者がいるか否かという社会的促進、さらに現在の社会に対して抱いている不満感、などが考えられる。それらの内で何が犯罪・逸脱行動の抑止に対して効果的であるのか、また効果的でないのか模索するために、窃盗・傷害・ゴミのポイ捨て・キセル乗車の各犯罪・逸脱行為を対象に、質問紙調査を実施した。
 調査対象者は、大田区在住の20歳から80歳の男女530名で、東京都大田区の選挙人名簿から二段階確率比例抽出法により抽出し、郵送により調査票を送付した。その結果215通の調査票が返信され、そのうち10通が欠損値により分析から除外された(回収率=39.4%)。
 得られた回答を重回帰分析・共分散構造分析した結果、窃盗・傷害・ゴミのポイ捨て・キセル乗車のほぼすべての事例において、法的制裁や社会的不満には際立った逸脱・犯罪抑止力は認められず、内面規範・社会的制裁・社会的促進といった要因に逸脱・犯罪抑止力が認められた。以上の結果を踏まえると、従来までの法的制裁に加えて、これらの要因を加味した社会的制度、例えば内的規範を重視するのであれば教育の整備、社会的制裁を重視するのであれば犯罪を許さない社会の構築、社会的促進を重視するのであれば逸脱者・犯罪者の収容施設の教化機能の充実、などを整備し、それぞれの要因をうまく組み合わせることによって犯罪・逸脱行動の抑止を図ることが望ましいものと思われる。