自己卑下・高揚が与える印象について 〜自己にとっての関連性との関係〜

中村 洋介

自己呈示が与える印象についての従来の研究では、自己卑下した方が自己高揚した場合より好まれる結果が出たというものもあれば自己高揚した方が自己卑下した場合より好まれる結果が出たというものもあり正反対の結論付けされているものがいくつもあった。そこで、その矛盾を解消するであろうと考えられる、Tesser(1988)のSEMモデルを応用した、「人は自分の自己評価を維持したり高めたりするように行動するため、自分にとって重要な活動が問題となっている時は自尊心を維持するような自己呈示のされ方を好み、自分にとって重要ではない活動が問題となっている時は必ずしもそうはならないだろう」という自己呈示印象モデルの検討が本研究の目的だった。このモデルを検討する上で、

自分にとって関連性の高い事柄について、

     →他者が自己高揚をしたら、その人に対する印象は悪くなるだろう

     →他者が自己卑下をしたら、その人に対する印象は良くなるだろう

自分にとって関連性の低い事柄について、

     →他者が自己高揚をしたら、その人に対する印象は良くなるだろう

     →他者が自己卑下をしたら、その人に対する印象は悪くなるだろう

という仮説を立てて検証した。
  実験計画では、関連性(高い・低い)×自己呈示の方法(自己高揚・自己卑下・統制群)の2×3の全6条件で行い、質問紙のシナリオで操作し、被験者にランダムに割り当て、シナリオ中の被験者の行動に対してどのように感じるのか(21項目,7点尺度)を被験者に回答してもらった。また、自己呈示印象モデルに影響を及ぼすと考えられる自尊心、相互独立的自己観・相互協調的自己観についても測定した。その結果、仮説は支持されなかったものの、相手にとって関連性が高い事柄における自己高揚は相手の自尊心を脅かし、それ故に相手の自尊心が高ければ高いほど、好感度が下がってしまうという自己呈示印象モデルを部分的に支持する結果が得られた。また、好成績への運帰属は、相手を気遣うための謙遜であり、本心をさらけ出しているわけではない自己卑下的行為であるということが、日本人の中では周知の事実となっており、そのためにその行為が日常茶飯事の当然の振る舞いと認知されて、従来の自己卑下の目的である好感を得るという結果が得られなくなっていることと、「日本人に自己高揚的呈示を行っても嫌悪感を与えない」、「成功への能力帰属は、自己高揚的帰属ではない」という2つの可能性が指摘できた。
  今後は、今後は、自己呈示印象モデルの更なる検討と成功の能力帰属の意味についての再検討が望まれるだろう。