家族凝集性と開放性の認知が成員の精神的健康に及ぼす影響について
渡邉菜緒
本研究では、第一に家族凝集性の認知が成員の精神的健康に与える影響を見ること、第二に家族の開放性の構成要素である異質なものの受容、異質なものへの柔軟性、異質なものへの接近が成員の精神的健康に与えるパターンを、家族凝集性と絡めて探ることを目的としている。現在、家族の崩壊が取りざたされていて、家族の構成や家族の機能の変化、個人の意識の変化がその要因として挙げられている。また、そうした家族は社会からの孤立化が進み、そのことがさらに家族に対する様々な問題を生み出している。そうした中で、これまでの家族研究では、家族の機能に注目し、家族内の関係性やコミュニケーションを中心に取り上げることが多かった。しかし、本研究では家族内での関係性を表す家族凝集性に加えて、家族外との交流形態を表す家族の開放性に注目した。さらに、家族の開放性は様々な要素を含んでいることが想定されたため、前述した三つの構成要素に分けることを試みた。そして、成員のそれぞれの変数に対する認知と成員の精神的健康がどのような関係にあるかを、交互作用も考慮した上で検討した。具体的な仮説としては、@家族の凝集性の認知と成員の精神的健康との間には正の相関がある、A家族における異質なものの受容の認知と成員の精神的健康との間には正の相関がある、B家族における異質なものへの柔軟性の認知は、凝集性が低い家族においては成員の精神的健康と正の相関がある、C家族における異質なものへの接近の認知は、凝集性が高い家族においては成員の精神的健康と正の相関があるという4つの仮説を立て、実際に社会調査を用いて仮説の検証を行った。その結果、仮説@〜Bについては支持され、仮説Cについては支持されなかった。すなわち、成員の精神的健康に対して、家族凝集性と異質なものの受容は全体において正の相関があり、異質なものへの柔軟性は凝集性の低い家族で正の相関が見られ、最後に異質なものへの接近は有意な相関が見られないということが分かった。このことから、成員の精神的健康を中心として考えると、性別、年齢、身体的健康、主観的経済状態や成員間での個人差を考慮しても、凝集性と家族における異質なものの受容は成員にとって非常に重要であり、凝集性の低い家族においては家族の異質なものへの対処も重要となることが分かった。これは、以下の三つを理由としている。一つ目に、まとまることをよしとする日本の文化を背景として、家族凝集性が高いことが成員に肯定的に評価されたことである。二つ目は異質なものを受容する家族であることが成員の安心感を強め、また、家族の中での交流も深めることである。最後に、家族凝集性が低い場合、家族の情緒的サポートが期待できないため家族外への対処が柔軟かどうかが成員に与える影響が大きくなるということである。また、家族の開放性については、凝集性と開放性3要素との交互作用を考えると開放性3要素それぞれで精神的健康に対するパターンが三者三様であるということが示された。これは、異質なものに対して受容することは家族凝集性を考慮せずとも成員にとって非常に大事な要素で、家族開放性の3要素の中でも高次の要素であるのに対し、異質なものに柔軟であることは凝集性が高い場合にはその影響を家族のフォローによって解消できるものであり、異質なものへ接近することは凝集性が高くとも低くとも、成員個人の接近によってまかなえるものであり、3要素の中では低次の要素であるということを示している。本研究での結果は、地域社会における家族全体を対象とした政策・支援の重要性とその方向性を示すとともに、「家族は自分に大きな影響を与えるものであり、大事にしていかなければならないものである」という意識を持つことを家族自身、ひいては家族の成員に促すものである。また心理臨床の場での家族に対する治療方針や、家族の中にカウンセラーという異質なものが入り込む家族療法そのものの有効性を示すものである。しかし方法論的な限界や、質問項目の問題もあり、更なる検討が必要である。さらに、本研究で新たな概念として提示された、家族の開放性の多面的な検討も今後の研究に委ねたい。