新しい消費者行動に関する考察 −感度、付加価値、内発的動機が購買行動に及ぼす効果−

山田 あゆみ

 購買行動は、私たちの人生そのものを形作る重要な過程である。日々常に繰り返される商品の購入にあたって、何を重視するか、どの程度こだわりを持つかということは、その人の生き方や価値観を強く反映している。これまでの消費者行動の歴史的発展を概観すると、消費者行動研究は市場全体の消費行動を理解する、経済学的発想からスタートし、その市場を同質ないくつかの消費者の集団からなるとするマーケット・セグメンテーションの段階、それをさらに細分化して受動的な個人を仮定した段階、個人のTPOに合わせたより能動的な個人を仮定した段階を経て、その焦点を一人の人間の行動研究に絞るところまで到達した。しかし、消費者個人の心的感情にまで目が向けられるようになったのは、つい最近のことに過ぎない。今日人々が投資する対象は、必需品よりも、生活をさらに充実させるために「欲しい」と感じる物へと移行しているため、消費者行動予測が可能な余地は非常に狭められている。かくして研究や理論の新たな発展をさしおいたまま、今日、生産者も消費者も、消費という行動を予想しにくい状態に陥っているのが現状である。
 今日のヒット商品に見る消費者傾向、マーケティングにおける経験価値志向をふまえ、本論文では、今後の消費者行動を探る上で注目する必要が出てくるだろうと考えられる新たな視点を提案する。それは以下の3点に集約できる。まずは、感じる心・五感への着目である。過去の調査では、五感が鋭い人や高い感度を示す人は自分の価値観や感性を大切にして、受け身ではなく積極的な消費行動を行うタイプであるということが示されている。すなわち、感度が高いことは積極的な消費行動を行うための重要な要素であると判断でき、この高感度尺度は、消費者を先駆者タイプと受け身態勢の強い消極的タイプを分ける尺度として用いることができる。次に、買う過程・消費する過程に着目する必要がある。これからの商品に求められるものは無形の付加価値であろう。その商品が「在る」ことによって、購入の前後に関わらず、その時空間に楽しさという付加価値を生み出す商品が求められるはずである。別の新たな視点として、動機の内発性・外発性にも注目したい。ここでの「内発的」は、購買動機として自分本位的な要素がより強いことを意味しており、逆に「外発的」は購買動機として他者本位的な要素がより強いことを意味している。身の周りに何を置くかに関し、どのような基準で物を選んで購入するかは、その人の感性や生活観と強く結びついている。内発性を重視するか外発性を重視するかの個人的差異は、商品選択に大きな影響を与えており、注目に値する。
 こうした新たな視点から見る消費のスタイルが、実際に消費者行動にどう関わっているのかを探るために以下の2つの仮説を設定した。一つ目の仮説では、「高感度尺度において高感度を示す人は、店の雰囲気や多様な商品群、商品の周辺価値に対する関心が強く、選択動機も内発性が強いであろう。逆に、高感度尺度において低感度を示す人は、店の雰囲気や多様な商品群、商品の周辺価値への関心が低く、選択動機も外発性が強いであろう」という予測を設定した。二つ目の仮説では、「先駆者タイプと消極的タイプの分類は、年齢層だけでなく、感度によっても可能であろう」、すなわち、デモグラフィック要因のみによらない消費スタイルの区分が可能であろうという予測を設定した。
 以上の仮説を検証するため、大田区の選挙人名簿より無作為抽出された20-49歳の男女800名に対して調査表を送付し、返送された210人の回答データを分析した結果は以下の通りであった。χ2検定によって、感度が高いほど店内装飾・商品群関心度、動機内発度が高くなることが示されたが、周辺価値関心度に関してはそのような傾向がみられなかった。相関関係においては、店内装飾・商品群関心度と周辺価値関心度は、互いに正の相関を示し合っており、感度と店内装飾・商品群関心度も高い正の相関を示した。以上の結果から、仮説1の予測は、周辺価値関心度についての部分を除き、ほぼ全体的に支持された。高感度な人を消費の先駆者タイプとするとき、周辺価値関心度は先駆者タイプを見分ける指標としての説明力は強くない。とはいえ、先駆者タイプの消費スタイルには密接な関わりを持っていることが分かった。また、消費者を先駆者タイプと消極的タイプに分ける要因として設定した各項目に関し、χ2検定と重回帰分析の二重の検定に絶え得る項目として残ったものは店内装飾・商品群関心度、動機内発度、動機外発度の3要因であった。また、先駆者タイプの傾向としては好ましくない動機外発度の傾向は、年齢によって規定されており(低年代ほど動機の外発性が高い)、逆に先駆者タイプの傾向として好ましい店内装飾・商品群関心度、動機内発度が、高感度であるほど高得点であるということから、仮説2の予測もおおむね支持されたといえる。
 これの結果から、今日の消費スタイルに影響を与える要因として注目してきた、感度、過程の重視、動機の質が、実際の消費行動において着実に反映されていることが実証的研究においても確認された。すなわち、単に機能だけが求められた時代から、今日のように商品自体の付加価値も商品に付随する無形の付加価値が重視されるようになり、それを求める消費者は着実に存在していることが明らかになったといえる。