携帯電話の通話利用が対人コミュニケーションに及ぼす影響

古田 茂行

日本人の2人に1人以上が携帯電話(PHSを含む)を持つという時代になっている。その中で、携帯電話は掛ける立場に立った時には、さまざまな意味で相手との距離が縮まり、対人関係を円滑に進めていく上で、非常に便利なものになっていることが分かるのだが、逆にこれらの便利さは電話を掛けてこられた側にとっても、いつも便利なものになりうるとは限らない。確かに、いつでも、どこにいても連絡をしてもらえるので便利だと感じたり(利便性)、常に持っていることによって安心したり(依存性)することはあるかもしれないが、場合によっては、「いつでも、どこにいても電話がかかってきそうで縛られているように感じる」という拘束感を抱くこともありうるのである。すなわち、掛ける側にとっては便利だと感じる時でも、掛けてこられた側にとっては必ずしも便利であると感じるとは限らないわけである。携帯電話が対人関係を円滑に進めていく上で多かれ少なかれ助けとなっているという考えには頷く点も多いが、気づかない部分で人間関係を悪化させていることも十分に考えられる。

今回の調査では、まず、大学生が実際に「電話がかかってきた時に、端末画面に現れる発信番号表示を見てから、電話に答えるかどうかを決める行為」(この行為を番通選択と呼ぶことにする)をするのかどうかを確認した。次に、それを確認した上で、この番通選択に強く影響を及ぼす可能性のある要因として、「相手との間柄(家族、友人・恋人など)」、「相手に対して持つ印象(相手とどれだけ意思の疎通をはかれていると思っているか、相手に対してどれだけ煩わしいと感じているか)」、「想定される相手の用件(長い用件vs.短い用件、単純な用件vs.複雑な用件)」、を挙げ、これらが番通選択にどのように影響を及ぼしているかを検証した。つまり、電話がかかってきた時に、端末画面に現れる発信番号表示の相手がどのような人であるときに、電話に出るか、出ないかを決めているのか、それをその電話に出る「可能性」という指標で表し、被験者間・内で比較したということである。また、この他に番通選択に影響を及ぼすと考えられる要因として、「被験者の携帯電話の利用頻度(日常的な頻度、最近の頻度)」、「携帯電話に登録している電話番号の件数」、デモグラフィック変数(年齢、学年、性別など)、などを挙げ、これらが番通選択にどのように影響を及ぼしているかも検証した。そして最後に、大学生層と他の層とを比較することによって、大学生が全体(携帯電話を利用している人)の中で、どのような位置付けになっているのかも検証した。

今回の調査では大きく分けて2つの調査を実施した。1つは、東京都中野区の2059歳の男女800人を対象とした郵送調査であり、もう1つは、中央大学、東京医科歯科大学、東京理科大学、弘前大学の男女大学生306名が務めた大学生調査である。

 

分析にあたっては、次の4つの仮説を立てた。

 

仮説1

暇であるが電話に出たくない時、友人・恋人からの電話より、家族などの血縁関係にある人からの電話の方が出ない可能性は高い。

 

仮説2

暇であるが電話に出たくない時、その相手と意思の疎通をはかれていると思っている度合いが大きいほど、その電話に出ない可能性は高い。

 

仮説3

暇であるが電話に出たくない時、その相手を煩わしいと感じる度合いが大きいほど、その電話に出る可能性は低い。

 

仮説4

暇であるが電話に出たくない時、想定される相手の用件が、長く、複雑な用件であるほど、その電話に出ない可能性は高い。

 

 暇であるが電話に出たくない時という、自分で電話に出るか否かを意思決定できる立場にあるにもかかわらず、それを拒否したいという消極的な気分である場合には、その電話の相手が家族であるか友人・恋人であるかはあまり問題ではなく、その相手と何でも話し合える関係であるほどその電話に出るということが分かった。また、大学生に限っては、相手のことを煩わしいと感じているほどその電話に出ないということも明らかになった。この意味で、大学生は相手をさらに厳しく選んでいるようである。さらに、2059歳の人の中において、想定される相手の用件が長いほど、そして、複雑な内容であるほど、その電話に出ないということも分かった。ただ、その中でも、大学生においては、その用件が複雑であるかは問題ではなく、長いか長くないかということによって、出るか出ないかを決定している。このように、携帯電話を介して、人は現在うまく意思疎通をはかって付き合っている相手とはさらに関係を深めていき、意思疎通をあまりはかれておらず、煩わしい相手とは関係を深めることはせず、拒否する行動を取る傾向にあるというように、人間関係を選別しているということが言えよう。