犯罪報道の議題設定効果の検証

櫻井 祐介

  どんな犯罪が問題となっているのか。汚職事件や企業不祥事、殺傷事件など様々な事件があるなかでどの犯罪が重大なのか。どの犯罪に政府当局の対応を求めるべきなのか。どんな犯罪者が特に問題なのか。これらの議論に社会的な合意ができるうえで、犯罪報道は大きな役割を果たしているのではないだろうか。このような観点から議題設定仮説の顕出性モデルに基づき犯罪報道の効果を検討した。
 研究方法は標本調査と新聞・テレビの内容分析だった。20歳以上69歳以下の東京都中野区住民800人を対象に2002年10月10日(木)を発送日,10月31日(木)を回収期限とした郵送調査を行った。有効サンプル数787のうち有効回収数が293で、回収率は37.23%だった。また全国紙4紙と、ワイドショーを含むテレビニュース11番組の内容分析を2002年9月27日(金)から10月31日(木)までの35日間行った。調査票に回答日とメディア利用状況を尋ねる項目を設け、回答者がふだん利用しているメディアで回答日前2週間に争点が報道された量を回答者の争点接触量として計算した。
 「マスメディアで、ある争点やトピックが強調されればされるほど、その争点やトピックに対する人々の重要性の認知も高まる」(竹下俊郎,1998,『メディアの議題設定機能』,学文社,p4)という議題設定効果を個人データに基づいて検証するために、各回答者の争点接触量を独立変数、争点にどれほど関心を持っているかを測った争点重要度認知尺度を従属変数とした重回帰分析を行った。争点は「東京電力などによる原発トラブル隠し」、「日本ハムなどによる牛肉偽装事件」、「林真須美が被告になっている和歌山毒カレー事件」、「八木茂が被告になっている埼玉保険金殺人事件」、「北朝鮮による日本人拉致問題」の5つだった。分析の結果、5つの争点のうち「埼玉保険金殺人」で犯罪報道の効果を検出した。なかでも新聞あるいは新聞一面の効果が強いことが分かった。またワイドショーを見ている人は犯罪報道の影響を受けやすかった。
 以上の結果から犯罪報道が受け手の争点重要度認知に影響を与えることがわかった。つまり典型的な議題設定効果が確認された。ただしどの争点でも発生する強固な効果というよりも、効果過程に阻害要因があれば相殺されてしまうレベルのものにとどまった。また議題設定の後続効果としてプライミング効果を検討したが、これもまた多少の効果はあっても強固なものではなかった。このことから議題設定効果やプラミング効果といったマスメディアの影響力は必ずしも強力なものではないと考える。