どのような人が異性の友人を持っているか? ―自己開示の効用―
上原 寿一
本研究の目的は男女共存の世の中になっていく中で男女の友人関係のメカニズムの違いを把握し、異性との友人関係をうまく築く方法を検討することであった。男女の友人関係のメカニズムの違いを報告する研究は同性の友人関係についての研究だけならたくさんある。その中で同性の友人関係における自己開示と性別、性役割の関係をみる研究がある。その結果、同性の友人関係では女性の方が自己開示度が高く、また女性性が高い人のほうが自己開示度が高いことが報告されている。また、男性性が高いと自己開示度が抑制されるという報告もある。しかし、恋愛関係と別個にして考えることの難しさから異性の友人関係について扱う研究はあまりみられない。そのため本研究では、異性の友人関係における自己開示と性別、性役割の関係についての研究を行った。また、どのような人に実際に異性の友人が多いのかを考えた。自己開示の相互性の観点から自己開示が中程度の人が好意的に評価されると考え、異性の友人関係における自己開示と友人の数の関係についての研究を行った。2002年10月に東京都中野区の20歳以上39歳以下の住民800人を対象にして郵送調査を実施した。まず異性の友人関係における自己開示度の性差について調べた。その結果、異性の友人関係において自己開示度に性差がみられ、女性の自己開示度のほうが高かった。また、本研究では異性の友人関係と比較検討するために同性の友人関係における自己開示度の性差についても調べたが先行研究での知見と同じくやはり性差がみられ、女性の自己開示度のほうが高かった。次に異性の友人関係における自己開示度と性役割の関係について調べた。その結果、女性については男性性も女性性も高い、両性性をもつことが異性への自己開示度の高さに与える影響が強いことがわかった。同性への自己開示についても同様の結果が得られた。これは女性の自己開示において男性的な主張性・積極性と女性的な感受性・表出性をともに持っていることが重要であるということを示していた。又男性については男性性が高いことが異性への自己開示度の高さに影響を与えることがわかった。また女性性が高いことが同性への自己開示度の高さに影響を与えていた。男性の場合、異性への自己開示度に女性性が影響しないのは男性は心の動揺や内面的な弱さを表に出すことがあまり好ましくないとされていて特に異性に対してそうであるからだと考えられる。本研究で見られた性役割と自己開示の間の関係は先行研究でみられた知見とは一致しなかった。男女での男性性、女性性の持つ意味の違いなどから性役割と自己開示の間の関係を調べることは非常に難しい問題だといわれており、自己開示の話題の内容や深さ、相手との関係の深さなど様々な要因を統制した上での更なる研究をすることが望ましいといえる。さらに、本研究では異性の友人関係における自己開示と友人の数の間の関係について調べた。その結果、異性の友人関係における自己開示と友人の数の関係については女性においては有意な影響ではなかったが自己開示度が低いことが異性の友人の多さに影響を与えていた。また男性においては自己開示度が高いことが異性の友人の多さに影響を与えていた。これは本研究において自己開示の相互性の観点から予測した結果と一致したものであった。しかし、同性の友人関係における自己開示と友人の数の間の関係も検討した結果、女性において自己開示度が高いことが異性の友人の多さに影響を与えていた。また男性において有意な影響ではなかったが自己開示度が低いことが異性の友人の多さに影響を与えていた。同性の友人関係におけるこの結果は自己開示の相互性の観点によっては説明できなかった。異性の友人関係、同性の友人関係の結果をまとめて解釈すると自己開示の対象が女性の場合、自己開示度の高さが友人の数の多さに影響するのではないかということがわかった。本研究では異性の友人のいない人をモデルに入れて検討できなかったため今後の研究では異性の友人がいない人も考慮に入れられるような工夫が必要であると考えられる。しかし、異性の友人のいない人について分析した結果、異性の友人のいない人は男性性が低いために積極性が低い、また異性との接触機会が少ない、社会的立場による制約によって異性の友人を多くもつことが望ましくないなどの特性をもっている人であることがわかった。