あなたは暇な時に一人でいたいですか? −余暇における対人志向性を決定する要因−
青木 瑛佳
余暇が生活満足感に及ぼす影響が、ライフコースや価値観の変化により増加したことに伴い、昨今では、余暇研究をすることの意義が深まってきている。余暇についての研究は、過去にArgyle(2001)や、Hills et al.(2000)などが、具体的な余暇行動についての研究を行っているが、余暇時の対人関係についての研究はまだほとんどない。そこで、本研究では、余暇時の対人志向性、すなわち、余暇を一人で過ごしたいか、誰かと一緒に過ごしたいかを決定する要因に焦点を当て、さらに、この対人志向性と余暇満足度との関係を調べた。主な要因としては、社交性、対人ストレスを考え、さらに対人ストレスの決定要因として、セルフモニタリング尺度の下位尺度である他者意識度、普段の他者接触度などを考えた。仮説は以下の4つとした。
1. 他者意識度と普段の他者接触度が共に高い時に、対人ストレスは多く感じるであろう。 2. 対人ストレスが少ない人は、社交性が高いほど、余暇時の他者接触希望度は高くなるだろう。対人ストレスが多い人は、社交性の高さによる、余暇時の他者接触希望度の上昇率は低くなるだろう。 3. 余暇の時に一人で過ごしたい人も、誰かと過ごしたい人も、実際の余暇においてもそうしている方が余暇の満足度が高いだろう。 4. 余暇の満足度が高い人は、生活満足度も高いだろう。
仮説を検証するために、足立区の20歳〜79歳の男女800人を対象とし、質問紙を用いた郵送調査を行った。回収率は36.3%、最終的な回答人数は283人であった。質問紙では、社交性3項目、他者意識度3項目、対人ストレス2項目、家族・近所・趣味や地域のグループ・職場や学校の人、それぞれのわずらわしさ、普段の他者接触度、余暇の時の他者接触度、余暇の時に他者と過ごしたいか一人で過ごしたいか(余暇時の他者接触希望度)、余暇時の具体的な行動7項目における他者接触希望度、余暇満足度を尋ねた。 分析をした結果、仮説1に関しては、他者意識度が高いほど、また普段の他者接触度が低いほど対人ストレスが高い、という結果になり、2つの変数の交互作用は見られず、完全には支持されなかった。仮説2に関しては、単に社交性が高ければ、余暇時の他者接触希望度が高くなるという結果になった。対人ストレスが多い人の場合でも、社交性の効果は見られたので、仮説はあまり支持されなかったと言える。仮説3に関しては、余暇の時に一人でいたいか、誰かと過ごしたいかに関わらず、誰かと過ごしている方が余暇の満足度が高い、という結果が見られ、一人でいたい人は一人でいた方が満足である、という仮説とは全く逆の結果になってしまった。仮説4に関しては、概ね支持された。 仮説が支持されなかった主な理由としては、仮説1に関しては、対人ストレスが高い人は「他者といる長さ」ではなく、「他者といること」そのものがストレスになっているため、普段の他者接触度がそもそも低いのではないかということ、仮説2に関しては、社交性が高い人はそもそも対人ストレスが少ないということと、回収率から見て本当に対人ストレスが高い人はそもそも調査票を返信しなかったのではないかということ、仮説3に関しては、一人でいたい人は「一緒にいたいと思う相手」がいないだけであって、そういう相手が見つかり、いざ一緒にいてしまえば楽しいと感じてしまうのではないかということが考えられる。これらを踏まえると、具体的にどのような人と一緒にいれば余暇を満足できるのか、インターネットなどのコミュニケーションツールも考慮にいれながら調べていくことが、今後の課題の一つであると思われる。