ビデオチャットを用いた共同作業に於いて 個人情報の共有がメンバーの親近感に与える影響
加藤 聡志
従来のCMC(Computer Mediated Communication)についての評価では、コミュニケーションメディアとコミュニケーションの内容が交絡して議論されていた。CMCに否定的な立場からはCMCではコミュニケーションチャンネルが限定されて、相手のことも分からず、自分のことも相手に伝わりにくい。そのため、task-orientedな傾向が見られたり、匿名性ゆえのフレーミング(罵り合い)などの現象がみられ、CMCでは良好な人間関係を築くことが難しいと主張されていた。一方CMCに肯定的な立場からは、バンド幅が低くてもsocio-emotionalな情報の交換は可能であり、匿名性も自己開示を促進する要素と考えられ、事実としてCMCでは良好な人間関係が形成されていることなどから、CMCで良好な人間関係を築くことは可能であると主張されていた。両者の議論はかみ合っておらず、CMCについての一貫した結論を導く事ができていなかった。
そこで本研究は、実験的手法を用いてsocio-emotionalな情報の交換を促すコミュニケーションの文脈を設置し、コミュニケーションメディアとコミュニケーションの内容を分離してそれぞれの場合について対人コミュニケーションを観察し、コミュニケーションメディア特性に基づく影響と、コミュニケーションの内容に基づく影響をそれぞれ分離して検討した。64人の男性大学生をメディア(FtF orビデオチャット)×socio-emotionalな情報の交換を促す文脈の有無(促す文脈の群では参加者がお互いに自己紹介を行わせ、個人の情報をお互いに共有させ、そうでない群では共有を行わせなかった)の4条件に無作為に割り当て、共同作業を行わせた。コミュニケーション相手に抱いた親近感を測定した結果、以下のグラフが得られた。
実験の結果、次のことが分かった。即ち、FtF(Face-to-Face Communication)ではsocio-emotionalな情報の交換を促す文脈が存在する場合でもしない場合でも、準言語・非言語のコミュニケーションチャンネルが使用可能であるために、socio-emotionalな情報の交換がなされ、良好な人間関係を築くことが容易であるのに対し、CMCではコミュニケーションチャンネルの幅が狭く、socio-emotionalな情報の交換を促進する文脈が設置されていない場合にはそういった交流はなされず、良好な人間関係を築くことは難しいが、socio-emotionalな情報の交換を促進する文脈が設置された場合には、socio-emotionalな情報の交換が成され、FtFと遜色ない水準の良好な人間関係を築くことが可能である。
本研究の貢献は、CMCでの対人コミュニケーションについて、従来の議論では交絡していたメディアの特性(利用可能なコミュニケーションチャンネルが制限されること)とコミュニケーションされる内容(socio-emotionalな情報の交換がなされるか、なされないか)を分離して影響を測定することで、後者の影響も前者と同様に重要であることを指摘し、CMC研究に於けるコミュニケーション文脈と内容についての分析の必要性を提言した点にある。