携帯メールの利用による自己注目刺激が抑うつ感に与える影響
北村 智
現在の携帯電話はさまざまな機能を持つようになり、単なる「携帯できる電話」ではなく、「携帯情報端末」として用いられるようになった。そして、携帯電話の中心的な機能である通話機能以外に用いられる機能の代表として、メール機能(文字通信機能:以下、携帯メール)があげられる。 携帯メールによるコミュニケーションでは、口頭でのコミュニケーションと異なり、メッセージが文字化されることになる。携帯メールの普及によって日常的に文字によるコミュニケーションが行われる機会は著しく増大したと考えられるだろう。そこで、本研究では、文字によるコミュニケーションの日常化の影響をテーマとした。 自分に関する文章を書くことは自己注目を誘引する刺激となる、という知見がある(Duval, Duval & Neely,1979; Fenigstein & Levine,1984)。また、私的自己意識特性と抑うつ感の間には、弱いながらも正の相関があるとされる(Smith, Ingram & Roth,1985)。しかしながら、私的自己意識が高くとも、自己に関連するポジティブな文章を書くことで、ポジティブな自己注目が行われ、抑うつ感が低くなると考えた。そこで、自己に関するポジティブな内容の文章を書くきっかけとして、親しい人との間で身の回りの出来事などについても話すことの多い携帯メールに着目し、明治学院大学、中央大学の学生300名を対象として調査を行い、携帯メールの利用による自己注目刺激が抑うつ感に与える影響を検討した。 分析の結果、私的自己意識が高く、自己に関連するポジティブな内容のメールを多く送っている人ほど、抑うつ感が低くなるという傾向がみられた。しかしながら、自己に関連するネガティブな内容のメールの量に関しては、抑うつ感に対する有意な効果はみられなかった。これについては、自己に関するネガティブな内容のメールを人に送ることによるカタルシスとしての効果や、送った相手からのフィードバックによる効果が関係すると考えられ、さらなる検討が必要となる。