青年期におけるクロスセックス・コミュニケーションがその後に与える影響について〜性差観の視点から〜
中村 有佑
本研究の目的は、青年期のクロスセックス・コミュニケーションが、その後のそれにどのようにして影響を与えているかを調べることであった。その際、異性をどのようにとらえるかを考えた尺度である「性差観」スケールを用いて、青年期のクロスセックス・コミュニケーションが性差観にどのように影響するか、また性差観が現在のクロスセックス・ コミュニケーションにどのように影響するかを調べた。「過去の接触頻度」と「現在の接触頻度」との媒介要因として「性差観」「異性の理想像」を加え、また主な統制変数として「社会的スキル」「対人緊張度」「異性に対する興味」を加えて分析を行なった。分析は全被験者に対してと同時に、性別・既婚未婚・交際非交際・高校共学別学・高校卒業大学卒業の各カテゴリーについて行なった。調査は2003年10月〜11月に東京都足立区の20歳以上39歳以下の住民800名を対象に行った。 まず、全体の被験者において「現在の接触頻度」に直接影響を与えていたのは「過去の接触頻度」「対人緊張」であり、「現在の接触の質」に直接影響を与えていたのは「過去の接触頻度」「性差観」「対人緊張」であった。「過去の接触頻度」と「現在の接触頻度」の間にはどのカテゴリーにおいても強い因果関係が見られた。その他の要因で「現在の接触頻度」に強い影響を与えていたのは、男性・既婚者の場合「性差観」であり、女性や未婚者の場合「異性に対する興味」であった。 また、高校別学/高校共学、大学非通学/大学通学という学校カテゴリーごとに分析を行なった結果、次のような結果になった。別学では「異性に対する興味」「性差観」が「現在の接触頻度」に働いていたのに対し、共学では「同性の友人の数」が働いていた。大学非通学者では「性差観」「異性の理想像」が「現在の接触頻度」に働いていたのに対し、大学通学者では「同性の友人」と「性別」「対人緊張」が働いていた。こうした結果は、学校要因によって青年期の異性との接し方が異なるためだと思われる。 「現在の接触の質」については、一部において「現在の接触頻度」とは違ったパス図が得られた。男性においては、「現在の接触頻度」に「対人緊張」が影響していたのに対し、「現在の接触の質」にはその影響がなかった。また女性においては、「現在の接触頻度」に「異性に対する」が影響していたのに対し、「現在の接触の質」にはその影響がなかった。 こうしたことから、「現在の接触の質」はただの表面的な接触とは別次元のことであることが示唆された。 以上の結果から、性差観や異性の理想像が現在のクロスセックス・コミュニケーションにマイナスの要因として働く場合があることが分かったが、それらが形成される過程に、青年期におけるクロスセックス・コミュニケーションが媒介していることはなかった。今後の研究の課題として、「性差観」「異性の理想像」を形成する要因やそれらが強く形成される時期などをより詳しく考慮する必要があると考えられる。