現代的価値観がエイジズムに及ぼす影響についての考察
中塚眞輔
超高齢化社会を迎えるにあたり、制度的矛盾を抱える日本社会では、高齢者に対する意識はどう変わってきているのであろうか。現代的価値観の中での高齢者という存在にスポットを当て、これを考察していくのが本研究の目的である。
仮説を立てるにあたり、現代的価値観としては、経済的問題にとらわれることからの脱却としての、脱経済志向を変数として用い、高齢者に対する意識としてはエイジズムを用いることとした。脱経済志向とエイジズムを媒介するのは、生産性を重視して他人を評価する傾向とし、エイジズム内でも、偏見が差別的行動を誘発するという段階を踏むのではないかと考えた。これらをまとめると、脱経済志向→生産性の重視度→高齢者への偏見→高齢者への差別的行動、という方向性となる。また、高齢者という概念を形作るものとして、定年制度の存在を考え、生産性を重視する人ほど定年の必要性を強く感じるのではないか、という仮説と、定年の必要性を感じる人ほど定年と高齢者観が密接に結びついているのではないか、という仮説を立てた。
仮説をまとめると、以下のようになる。 1:脱経済志向が高い人は、生産性を重視して他人を評価する傾向が弱い 2:生産性を重視祖して他人を評価する傾向が弱い人ほど、高齢者に対する偏見が少ない 3:高齢者に対する偏見が少ない人ほど、高齢者に対する差別的行動が少ない 4:生産性を重視して他人を評価する傾向が強い人は、定年制度の必要性を強く感じる 5:定年制度尾の必要性を強く感じていない人ほど、定年と高齢者観の密接さが低い
調査は、東京都足立区の選挙人名簿より、20歳から79歳までの男女800人を無作為抽出し、質問紙を郵送するというかたちで行った。有効回答数は283、有効回答率は36.28%であった。
仮説の検討の結果、脱経済志向→生産性の重視度→高齢者への偏見→高齢者への差別的行動、というパスは支持され、経済的問題のエイジズムに対する影響が示唆された。一方、定年制度に関する仮説については支持されず、定年という制度の複雑さを示す結果となった。また、未既婚と各変数の関連性について追加的に分析したことにより、結婚することによる環境の変化がさまざまな影響を与えていることが示され、こうした家庭環境の変化が高齢者観に与える影響についても検討していく必要があることが示唆されている。今後、社会構造の変化に伴い、家庭環境はますます変化していく。こうした変化を加味した考察が、今後の課題となっていくだろう。