Katz & Lazarsfeld(1955)の「コミュニケーションの2段の流れ」説以来、対人コミュニケーションは政治研究・消費行動研究など様々な領域において重要な意味を付与されてきた。しかし、その多く研究は個人特性や状況要因、ネットワーク分析的なものに留まり、実際になされる会話内容については、ほとんど明らかにされていないのが現状である。
それに対して、本研究ではGranovetter(1972)の議論を切り口として、情報の共有の度合いという変数によって会話を行う他者を強い絆・弱い絆に分けた上で、「弱い絆の強さ」から想像できるコミュニケーション像とは逆に、情報が多く共有されている強い絆ではお互いの情報が共通する話題では飽きてしまうため、話題選択において差異性が求められ、情報の共有が少ない弱い絆ではお互いの接点を求めて、共通性が求められると考えた。
「会話が盛り上がるためには情報の共通性と差異性の均衡点が存在しており、それを求め、両者の情報に共通性が強い時には、差異性が存在する話題が選ばれ、両者の情報に差異が大きい時には、共通性をもたらすような話題が選ばれる。」
以上の仮説を立て、2004年10月〜11月に東京都大田区においてランダムサンプリングによる郵送調査を行った。(計画サンプル800、対象年齢20〜69歳、回収率は20.7%)
その結果、「強い絆においては話題選択において、差異性(情報の交換が出来る事)がより重視される」という部分のみ仮説が支持された。しかし、絆の強さを規定する変数として設定した親密度と会話頻度の間に逆転が起こっており、会話頻度を考慮して分析した所、強い絆においては共通性を求めて話題が選択され、弱い絆においては差異性を求めて話題が選択されるという仮説とは逆の結果が得られた。これは「弱い絆の強さ」から想像されるコミュニケーション像に合致する結果である。
しかし、話題選択理由に対しては、客観的変数から測れる現在の絆の強さ以上に、関係継続意図という心理的変数が強く影響しており、この変数は共通性・差異性の両方に対して正の影響をもっていた。これは話題選択において当初の想定とは全く異なる構造が働いている可能性を示唆している。将来の関係継続しようとする相手とのコミュニケーションにおいては、相手との情報の共通性を求めるということ・お互いに知らない情報を交換し合うということ(差異性)が使い分けられながら関係が形成されていくのだろう。
また、両者間の客観的な変数よりも両者の心理的な変数が重要とされたことに対して、今後、小集団実験やスノーボールサンプリングによる調査などの手法を取り入れた上での研究が求められると考えられる。さらに本研究において、政治・消費行動研究など個別の領域に関連し得る知見も得られており、これらの領域への接近も必要とされるだろう。