コミュニケーションの相手・内容およびコミュニケーションスキルがチャネル選択に及ぼす効果の検証

加藤 正和

近年のコミュニケーションテクノロジーの変化には目を見張るものがある。ここ数年でわれわれはいつでも好きなときにさまざまな方法でコミュニケーションすることが可能となった。そして、われわれのコミュニケーションスタイルも急激に変化しつつある。このことが持つインパクトは想像以上に大きいものだろう。コミュニケーション活動は人間の最も基礎的な活動の一つであるといえる。その活動が今ターニングポイントを迎えているのだから、初めて火を使ったときまでとは言わないが、相当なインパクトを有していることは間違いない。したがって、このコミュニケーションスタイルの変化について考察することは有益なことであるといえる。

さて、昨今のコミュニケーションスタイルを鑑みると、コミュニケーションの際に同時に複数のメディアが利用可能である状態が、一般的である。われわれは、無意識のうちに複数の選択肢から、特定のメディアを選択してコミュニケーションしているのである。CMC(Computer Mediated Communication)に関する研究は、その歴史の浅さにもかかわらず、非常に多数存在する。しかしながら既存の研究のほとんどは特定のコミュニケーションメディアに特化したもので、複数メディアのCMC、CMCとFtF(Face-to-Face)を横断的に分析した研究は存外少ない。そこで本研究は、FtFも含めた複数のメディアを横断的に分析することを目的とし、これらのメディアが利用可能な場合において、どのようなメカニズムで特定の選択に至るかを検討する。

複数のメディアを扱った数少ない研究のひとつにO'Sullivan(2000)のImpression Management Modelの研究がある。O'Sullivanは、コミュニケーションの内容を自己関連―他者関連、ポジティブ―ネガティブの2軸で定義し、それぞれのコミュニケーションを行う際どのようなメディアが選択されるか検証した。その結果自己に関連してネガティブな内容の場合、自らの印象が脅威にさらされるため、それを保護するために戦略的にバンド幅(情報伝達容量)の狭いメディアを選択するという。
しかしながら、この研究においてはメディア選択の要因をコミュニケーションの内容のみに限定しており、そのほかの要因には言及していない。そこで本研究ではコミュニケーション内容に加えて、コミュニケーションの相手、及びコミュニケーターの社会的スキルと対人不安を、メディア選択の要因とした。さらに、コミュニケーションにかかる精神的負担の度合いとして、コミュニケーションコストという概念を導入した。これは、コミュニケーション時に非言語情報を統制する必要性の度合いをさす。基本的にはコストが高い=自らの印象も脅かされうる、ということで、コストが高いほどバンド幅の狭いメディアが選択される傾向にあると予測される。

仮説は以下の通りである。
仮説1:コミュニケーション・スキルが高いほど、選択チャネルのバンド幅が広くなる。
仮説2:相手の違いによるコミュニケーション・コストが高い場合、より狭いメディアが選択される。
仮説3:内容の違いによるコミュニケーション・コストが高い場合、より狭いメディアが選択される。
仮説4:コミュニケーション・コストが高い場合のほうが、低い場合よりコミュニケーション・スキルの大小による選択チャネルの差が大きくなるという、交互作用が生じる。

 なお、調査はインターネットを通じて行われた。

 分析の結果、社会的スキル・対人不安ともに単独でのメディア選択への効果は見られなかった。しかしながら、相手や内容などの効果と結びついたとき社会的スキル・対人不安は効果を持った。社会的スキルは内容との交互作用を持ち、対人不安は相手との交互作用が認められた。
また、相手のみ、内容のみ、の効果も確認された。相手の効果は仮説どおりのもので、悪い印象が持たれうるような相手の場合は、選択メディアのバンド幅が狭くなっており、Impression Management Modelとも整合性が高い。しかし、内容の効果は仮説とは逆の方向性を有しており、仮説は支持されなかった。この点について考えうる要因は、規範の問題が挙げられる。本研究では設定したコストの高い内容とは「お金を返してもらうよう催促する」というものであり、コミュニケーション内容そのものが印象の脅威となることはないが、そのアプローチ方法がとても難しいという性質のもであった。したがって、こういう話を電話でしたら失礼に当たる的な規範が働いたとも考えられる。
まとめると、本研究は、Impression Management Modelにおいてコミュニケーションの相手も重要な要素であり、われわれは相手によってメディアを使い分けていること、内容は場合によっては規範などのほかの要因の影響を受けるということ、社会的スキルや対人不安などのコミュニケーション系スキルは、他の要素と関連して初めてメディア選択に効果を持つということを示した。特にコミュニケーション系スキルと他の要素との関連に関しては、今後も研究の余地がたぶんにあるだろう。