近年のインターネットの爆発的な発展と普及に伴い、多くの魅力的なメリットを持つイー・コマース(以下EC)の市場規模は拡大の一途にある。しかしその一方で、多くの消費者がいまだにECに対して強い不安感を抱いていることがECの普及の阻害要因として重大な効果を及ぼしている実情も報告されている。
本研究ではこのような消費者のEC魅力認知度およびEC不安認知度がどのような要素から形成されるのか、また実際にこれらがEC行動にどのような影響を与えるのかを検証するにあたって、消費行動研究の分野で近年その効果の大きさが注目されている「口コミ」の仕組みを、ECにおいても適応できないかと考えた。具体的には池田(1993)によるリアリティ形成の3層のモデルを基にして、ECの魅力認知やEC不安認知などがリアリティとして実感されるには、第一にマスメディアなど社会の正統的な制度から影響を受けて形成される方法、第二に自分自身の内的特性であるイノベーター度や一般的信頼感の効果で形成される方法、また第三に周囲の他者との対人コミュニケーションを通じて形成される方法が存在する、という考え方に沿って、それぞれの変数が自己のEC魅力認知およびEC不安認知に効果を及ぼす仮説を立てた。
仮説の検証には株式会社インタースコープの協力の下、同社のモニター会員からサンプルを無作為に抽出し、インターネット調査システムを通じてオンラインでアンケート・フォームに回答してもらった。
その結果、自己のEC魅力認知度およびEC不安認知度の形成においては、周囲の一般的な他者、また特定の友人とECに関係する会話を交わし、そこから他者のEC魅力認知度や不安認知度を印象として受け取ることが、自己の印象の形成にも非常に強い有意な効果を及ぼすことが明らかになった。具体的には、他者についてEC魅力認知または不安認知が高いと感じるほど、自身のEC魅力認知度と不安認知度も高まる効果が示された。また一般他者とのEC会話の頻度にも、自己のEC魅力認知度を高め、EC不安認知度を低める効果があることが認められた。
既存のマスメディアによるECの魅力要素および不安要素に関する報道が直接自己のEC魅力認知および不安認知に及ぼす効果も確認されたが、その場合にも他者との対人コミュニケーションを媒介する効果が認められるなど、本研究では総じて他者の効果の有効性が主張される結果となった。以上より、ECを促進させるためには、売り手はターゲットのみならず、その周囲の人々へのプロモーションを行うことが有効ではないかと考えられる。
なお、イノベーター度や一般的信頼感などの個人特性の効果に関しては、対人コミュニケーションが与える効果と比較しても小さいことが示され、ECの促進にあまり有益な情報とはなり得なかった。また今回の分析では多くの変数を使用したものの、すべての変数について十分な分析を行うことができず、中でも「自己のトラブル経験」および「他者のトラブル経験」に関する考察は、今後の重要な課題として残っている。