飲酒スタイルによるストレス解消メカニズムの違い

岡崎 大輔

飲酒がストレス解消につながるという考えは世代や文化を問わず至極一般的なものであり、ストレス蓄積度と飲酒の関係を調べた研究は数多い。だが、それらの多くは飲酒とストレス解消を直接に結びつける考え方を前提としており、ストレス解消の過程(メカニズム)を研究した例は少ない。また、日本人の間で飲酒が女性や高齢者にも広まっていることを受け、飲酒スタイルが多様化してきている。これらの事実にしたがって、「飲酒が持つストレス解消要因も飲酒スタイルごとに多様化し、すなわちストレス解消メカニズムも飲酒スタイルごとに異なっているのではないか?」という疑問が発生した。
そこで、飲酒スタイル(状況)をストレスの蓄積どや一緒に飲酒する相手の違いから、以下に挙げたような6つの条件に分け、それぞれに異なる仮説を設定した。以下に挙げた、条件ごとに異なるストレス解消要因(独立変数)がストレス解消効果(従属変数)に影響すると考えた。
条件1:低ストレス時、相手が家族や恋人の場合
ストレス解消要因:生理的効果への期待、会話への欲求、おいしさへの期待、食事がおいしくなることへの期待、飲酒の雰囲気への期待
条件2:低ストレス時、相手が友人や同僚の場合
ストレス解消要因:生理的効果への期待、会話への欲求、おいしさへの期待、食事がおいしくなることへの期待、飲酒の雰囲気への期待、騒ぐことへの欲求
条件3:低ストレス時、一人で飲酒する場合
ストレス解消要因:生理的効果への期待、おいしさへの期待、食事がおいしくなることへの期待、飲酒の雰囲気への期待
条件4:ストレス時、相手が家族や恋人の場合
ストレス解消要因:生理的効果への期待、会話への欲求、ストレス解消欲求、愚痴を言うことへの欲求
条件5:ストレス時、相手が友人や同僚の場合
ストレス解消要因:生理的効果への期待、会話への欲求、ストレス解消欲求、愚痴を言うことへの欲求、騒ぐことへの欲求
条件6:ストレス時、一人で飲酒する場合
ストレス解消要因:生理的効果への期待、ストレス解消欲求

こうした仮説を検証するために、質問紙法により調査研究を実施した。調査対象は東京都大田区に住む20歳から69歳までの日本人800人とした。有効回答数は249であった。飲酒習慣のまったくない人などを除いたため、本研究で扱うことのできた有効回答数は182であった。
条件ごとに重回帰分析を行い、各条件でどの要因がストレス解消効果に影響するかを検討した。結果、条件ごとに以下のような結果を得た。
条件1:会話、騒ぐ事への欲求がストレス解消効果に影響する。
条件2:生理的効果への期待、会話への欲求がストレス解消効果に影響する。
条件3:生理的効果への期待、おいしさへの期待がストレス解消効果に影響する。
条件4:生理的効果への期待、ストレス解消欲求、会話への欲求がストレス解消効果に影響する。
条件5:会話への欲求がストレス解消効果に影響する。
条件6:生理的効果への期待、おいしさへの期待がストレス解消効果に影響する。

相手を伴う条件全体を通して、会話への欲求がストレス解消効果に大きく影響することを示す結果となった。また、一人で飲酒する条件では、おいしさへの期待がストレス解消効果に大きく影響することが示された。性別などの影響も少なくないだろうが、相手を伴う飲酒は円滑な会話が、一人で飲酒する際には酒自体のおいしさが、ストレス解消効果に大きくかかわってくると言える。