本研究では、人々の日常のストレッサーが抑うつ反応に影響を与える過程において、どのような心理的・対人的要因が影響を与えているかを、1993年に東京都老人総合研究所が「対人関係についての意識調査(13歳以上用)」として実施した調査データのうち、生徒・学生以外のデータに基づき検討した(N=1460)。
本研究の目的は、まず第1に、ストレス耐性として機能する性格特性を特定することであった。次いで、第2の目的は、ストレッサーの影響(ネガティブなインパクト)が抑うつに影響を与える過程において、ソーシャル・サポートおよびストレス耐性としての性格特性が相互交渉的にどのような効果を有しているかについて検討することであった。その際、ストレスの影響性を統制し、サポートおよびストレス耐性に緩衝効果が見られるかについて検討した。また、サポートとストレス耐性との間の交互作用効果についても検討した。
結果として第1に、ストレッサーの影響がストレス反応に及ぼす効果については、ストッレッサーのネガティブなインパクトが強いほど、抑うつ度が高いことが確認された。
第2に、心理的ストレス過程におけるソーシャル・サポートの効果を検討するために、ストレスの影響性の高低に分けて分析を行った結果、影響性が高い群においてはソーシャル・サポートの受容量が多いほど抑うつ度は低く、影響性の低い群においては、ソーシャル・サポート量の多さは抑うつ度と関連が見られないという緩衝効果がみられた。しかし、一方で、サポート・ネットワークが大きいほどストレスの影響を強く受けており、サポート・ネットワークの大きさと抑うつ度との間には、単独では有意な相関関係はみられなかった。また、ソーシャル・サポートの受容量は、対人関係スキルが高いほど多く、またソーシャル・サポートの受容は自己効力感の向上を介して間接的に抑うつ低減に効果をもっていることがわかった。
第3に、抑うつに関連するストレス耐性として@非神経症傾向A外向性B誠実性C協調性の4つの因子を抽出した。これらの性格特性は、影響性およびサポートを統制すると、「外向性」、「誠実性」、「協調性」のみが抑うつ度に有意な効果をもつことが明らかになった。なかでも外向性が抑うつ度を低減する効果が大きいことが分かった。協調性は、ストレスが高いときにのみストレスを低減する緩衝効果を有していた。
最後に、サポートとストレス耐性の間の関係性については、サポートが小さいときにのみ、誠実性がストレスを低減するという緩衝効果が見られた。
また、外向性は、ストレスの影響性の高低やサポートの大小にかかわらず抑うつに効果をもっており、これらの心理的ストレス過程において抑うつを低減する効果は、サポートよりもストレス耐性の方が大きかった。
本研究において、サポートとストレスの影響性との間に正の相関関係が見られ、一方、抑うつ度との間には有意な関係はみられなかったことは、サポートが抑うつを低減させる緩衝要因として働くことを考えると、明らかに矛盾することである。このことは、本研究において、サポートをサポート・ネットワークの大きさによって測定したことに起因すると考えられる。すなわち、ネットワークが大きく、広範囲にわたればわたるほど、当然その中の対人関係がストレスとなる可能性が高まることが考えられる。よって、対人ネットワークはサポート源であると同時にストレス源でもあり得ることが問題点として浮かび上がった。
また、ストレス耐性とサポートとの相関については、ストレス耐性が高いほどサポート量が多いと予測したが、本研究では、非神経症とサポートとの間に負の相関がみられただけであった。その原因としては、第1に、本研究で抽出した「神経症」が厳密な意味では神経症傾向を表していなかったこと、および、先行研究では知覚されたサポートとしてサポートを測定していたのに対して、本研究では、サポート・ネットワークの大きさを測定していたことが考えられる。
今後は、ストレス耐性としての性格特性の指標を精緻化するとともに、親しい人がストレス源になっている可能性など、サポートの質的な側面を踏まえた上で、両者の関係を包括的に検討した研究が望まれるだろう。