CMCとFtFの順序による自己開示量・好意度・印象の違い

堺 理恵子

近年、インターネットの普及にともなって重要になってきたComputer-Mediated Communication(以下CMC)の効果については賛否両論の研究があるが、CMCのプラス面については、視覚的匿名性による自己開示の促進がJoinson(2001)などによって指摘されている。自己開示は対人魅力の重要な要素だとされ(Jourard,1956など)、CMCの方がFtFよりもコミュニケーション後の相手への好意度が高いとする研究(Bargh et al.,2002)もあるが、必ずしもCMCにおける自己開示と好意度との間の関係は明確には示されていない。また、CMCからFtFに移行する研究は多くあるが、FtFからCMCに移行する場合については十分には検討されていない。そこで、本研究では、CMCからFtFに移行する場合と、FtFからCMCに移行する場合とで、1)相手に対する印象や好意度にどのような違いが見られるか、2)1)と自己開示とはどのような関係性をもっているかを、実験によって検討した。
その際の予測は以下の通りである。まず、先行研究を踏まえると、CMCの方がFtFよりも自己開示が多くなるという予測が成り立つ。しかし、自己開示には視覚的匿名性という要素が重要であることを考えると、CMC→FtFの場合はCMCでの視覚的匿名性は保たれているが、FtF→CMCの場合は、初めのFtFの際に視覚的匿名性が失われているため、2度目のCMCでの視覚的匿名性の効果は少なくなるのではないかと考えた。したがって、FtF→CMCでは自己開示の量はCMC→FtFよりも少なくなるだろう、と予測される(仮説1)。また、そのことからFtF→CMCよりもCMC→FtFの方がコミュニケーション終了時の相手への好意度は高くなるだろう(仮説2)、と考えられる。さらに、相手に対する印象について考えると、CMCでは利用可能なチャネルがFtFよりも少ないため、印象形成がFtFよりしにくく、その印象は弱いものとなる(笠木&大坊,2003)。すると、CMC→FtFの場合は、FtF→CMCの場合よりも、初めに持った印象が二回目のコミュニケーションに移行した時に変化しやすいのではないかと考えられる。そしてその印象は、仮説2より、CMC→FtFの場合の方がポジティブなものになるのではないかと考えた(仮説3)。これらの仮説をまとめると以下のようになる。
仮説1、CMC→FtFのほうがFtF→CMCに比べて自己開示量が多い。
仮説2、CMC→FtFのほうがFtF→CMCに比べてコミュニケーション終了時の相手への好意度が高い。
仮説3、CMC→FtFのほうがFtF→CMCに比べて相手の印象の変化がポジティブな方向へ生じる。
これらを検証するために、東京大学の学部生・大学院生60名を対象に実験を行った。具体的には、FtF→CMC(FC条件)、CMC→FtF(CF条件)と、両者との比較のためにCMC→CMC(CC条件)を行う3条件に被験者を割り当て、それぞれの発言量、自己開示量、主観的相手開示度、相手理解度、相手への好意度、相手への印象などを測定した。
その結果、CF条件がFC条件よりも自己開示率が高かったため、仮説1は支持された。これは、予想していたように、FtFを先に行った場合にCMCにおける視覚的匿名性が失われ、二回目のCMCでの視覚的匿名性が失われたためではないかと考えられる。ただし、本研究では、先行研究のように、CMCはFtFよりも自己開示率が高いという結果は得られなかった。これに関しては、統一化された自己開示測定の指標の必要性が示唆された。仮説2については、コミュニケーション終了時の好意度に条件ごとの有意な差が見られなかったことから、支持されなかった。しかし、各回ごとの分析から、CMCでもコミュニケーションの回数を重ねれば、FtFを行った場合と同程度の好意度が持たれることが示された。また、CF条件の方がFC条件に比べて有意に印象がポジティブに変化したことから、仮説3は支持された。ただし、その意味する内容は好意度とほぼ同様に考えられ、FtFでは手がかり情報の多さから短時間でポジティブな印象が形成されるが、CMCであっても回数を重ねれば、FtFと同程度ポジティブな印象が形成されると考えられる。好意度、印象については、実際の自己開示量ではなく、主観的な相手の自己開示度認知や相手の理解度との間に関連があることが示された。特に、主観的な相手の自己開示度認知については、CMCにおいて重要であることが示された。
また、探索的な分析によって、男性はFtF,女性はCMCでの自己開示量が多く、CMC利用頻度の高い人はFtFでの自己開示量が低い傾向にあることが示された。これらについては今後の詳細な研究が待たれる。