購買意思決定における合理的意思決定ルートと情緒的意思決定ルート

田島 亮

購買の決定には、値段の安いもの、機能が高いものを重視する、というように人間の理性面に訴える商品の価値を重視、吟味して購入の決定に結びつくタイプと、人の五感に訴える商品のムードや雰囲気を重視するといった人間の感性面に訴える商品の価値を重視、吟味して購入の決定に結びつくタイプの2種類あるのではないかと疑問を持ったのが本調査の興味の出発点であった。加えて、ELMのようにその2種類の意思決定ルート―合理的意思決定ルートと情緒的意思決定ルートはどちらか一方で購買意志決定に至るのではなく、双方を通って購買意思決定はなされると考えた。
よってリサーチ・クエスチョンをリサーチ・クエスチョンは「購買意思決定には、理性に訴える商品の便益を評価して購入を決める合理的な意思決定ルートと、感性に訴える商品の便益を評価して購入を決める情緒的な意思決定ルートの2つが存在する」とおいて研究に取り掛かった。
本研究では、「購買前における所得の消費への配分に関する決定、商品の購買計画、購買、購買後の使用、保管、廃棄」という一連の消費者行動の中でも、購買意思決定プロセスと合理性、情緒性の関係を明らかにするという理由から「購買」部分に注目した。さらに、情緒性を働かせることの多い、実際に店舗へ足を運んで購買するスタイルの購買を研究対象とした。
そして、理論仮説を
「購買意思決定は、合理的な意思決定ルートと情緒的な意思決定ルートの2つが同時に存在する」
「合理的意思決定ルートと情緒的意思決定ルートは相互独立的に存在する」
とおいた。
ELMや、Howardのニューモデルを基盤としながら、FCB GRIDや多属性態度モデルを参考にし、今回の調査にあわせる形で以下のようなモデルを立てた(図表1)



図表1、情緒性、合理性と購買意思決定プロセス(矢印はすべて+)
上のモデルを検証するため、大田区の選挙人名簿より無作為抽出された20−69歳の男女800名に対して調査票を送付し、返送された222名の回答データを分析した。結果は以下の通りであった。
 モデルの検証をするために、SEMによるパス解析を行った。しかし、モデルとデータの適合度を示す指標はいずれも悪く、モデルは成立しないことが分かった。原因は、本調査で用いた製品関与に動機付けの側面が欠如していたにも関わらず、モデルには製品関与を動機付けの変数として使用してしまった点、既に購入した商品に対する事後評定から生じるポジティブな回答への偏りだと考えられる。
 そこで、モデルから関与を抜き、さらに、合理的意思決定ルートと情緒的意思決定ルートの相互独立性を確かめるために、「合理性→情緒的商品価値」、「情緒性→合理的商品価値」、「合理的商品価値→情緒的確信」、「情緒的商品価値→合理的確信」のパスを加えて、それぞれのパスの有意性を確かめた。具体的には、関与を統制変数として用い、重回帰によるパス解析を行なった。合理的意思決定ルートでは、合理的商品価値から態度へのパスで正の影響を有意に認めることが出来ない点以外では概ね、態度形成、購買意図を説明することが出来た。情緒的意思決定ルートでも、情緒的確信から購買意図へのパスで正の影響を有意に認めることはできなかったが、態度を媒介すれば購買意図へ至る事がわかった。調査票では、既に購入した商品を回答者に挙げさせ、その上でその商品についての意思決定の仕方を質問していた。情緒的確信から購買意図へのパスで有意に正の影響を見ることが出来なかったのは、調査票で挙げさせた商品に合理的に意思決定するものが少なかったためだと考えられる。
よって、理論仮説「購買意思決定は、合理的な意思決定ルートと情緒的な意思決定ルートの2つが同時に存在する」は、ほぼ支持されたといえる。
さらに、「合理的意思決定ルートと情緒的意思決定ルートは相互独立的に存在する」という理論仮説は、情緒性から合理的商品価値へのパスで、負の影響が見られた点以外は、合理的意思決定ルートと情緒的意思決定ルートは互いに影響を及ぼしあってはいないので、ほぼ支持されたと言ってよいだろう。しかし、完全に相互独立的であることを証明できたわけではなく、また、ELMの流れを汲む情報処理プロセスの研究では中心的ルートと周辺的ルートは完全には二分できず、相互に影響し合う箇所もあるとされている。したがって、基本的には相互独立的であるが、相互作用を起こしている箇所もあると仮定した上で、研究するのが今後の課題であると言える。