「ウェブログ閲覧が個人の心理過程に及ぼす影響について(コミュニケーションツール/情報収集ツールとしてのウェブログ ウェブログ読者の視点から)」

星本麻亜沙

 インターネットが普及することによって、コンピュータを介したコミュニケーション(CMC)が活発になっている。CMCについては初期にはインターネットパラドクスなどの否定論争が起こったが、ここ数年ではそのコミュニケーション的価値が再確認されてきている。そういったCMCの中でも特にここ2年で急激にユーザ数を伸ばしているウェブログについて本研究では議論する。
 これまでweb日記研究やウェブログ研究はなされてきたが、そのどれもがweb日記及びウェブログの書き手からの視点であった。しかし、コミュニケーションは送り手と受けてとがいてなされるものであるため、これらの研究に対して、本研究では、ウェブログの読み手視点での意義の検討と行った。
 ウェブログは、web日記と同様、コミュニケーション的に用いられる場合と、情報収集or情報発信ツール的に用いられる場合とがある。これらのそれぞれについて、どのような人間がウェブログを閲覧し、どのような効用を得ているかについて検討した。ウェブログの特性や、オフラインにおけるコミュニケーション、情報収集の特長などを考慮し、ウェブログを読む人の特性、ウェブログの心理的効用について以下のような理論仮説を立てた。

1-1:公的自己意識の種類によって、閲覧するウェブログの種類が異なる
1-2:公的自己意識が高いほど、ウェブログ閲覧頻度が高い
2-1:親和動機の種類によって、閲覧するウェブログの種類が異なる
2-2:親和動機が高いほど、ウェブログ閲覧頻度が高い
3-1:ウェブログ閲覧頻度は、精神的健康性に正の効果を及ぼす

作業仮説としては以下のようになる。
1-1:プライベートな公的自己意識が高いほど、知人のウェブログ/日記形式のウェブログ閲覧頻度が高い
1-2:パブリックな公的自己意識が高いほど、知らない人のウェブログ・オピニオン系のウェブログ閲覧頻度が高い

2-1:親和動機として情緒的支持を求める度合いが高いほど、知人のウェブログ/日記形式のウェブログ閲覧頻度が高い
2-2:親和動機として社会的比較を求める度合いが高いほど、知らない人のウェブログ・オピニオン系のウェブログ閲覧頻度が高い

3-1:知人のウェブログ閲覧の頻度が高いほど、書き手への熟知性があがるので、孤独感が減る
3-2:日記ウェブログ閲覧の頻度が高いほど、書き手への熟知性があがるので、孤独感が減る
3-3:ウェブログ閲覧の相互性が高いほど、孤独感が減る
3-4:オピニオン系のウェブログ閲覧頻度が高いと、ウェブログによる情報収集可能性があがるため、自己効力感があがる
3-5:オピニオン系のウェブログ閲覧頻度が高いと、自分の意見の主観的な妥当性が上がるため、自己効力感があがる。


これらの仮説を検証するために、2005年10月28日から11月29日にかけてYahoo!ブログを執筆している者においてランダムサンプリングによるインターネット調査を行った。(計画サンプル3000、回収率10%)。
その結果、公的自己意識の種類によってウェブログを閲覧する傾向が異なることが示唆された。また、公的自己意識や親和動機は直接ウェブログの閲覧頻度を規定しなかったが、ウェブログ閲覧頻度やオピニオンリーダー特性といった別の変数を介してウェブログ閲覧頻度に間接効果を持つことが分かった。
更に、知人のウェブログや日記のウェブログを閲覧する者ほどで、相手を良く知るということを通じて孤独感が低いことが分かった。また、オピニオン系のウェブログを閲覧する者ほど、情報収集の可能性を意識することで、自己効力感が高いことが分かった。
これらのことは、ウェブログ閲覧が、コミュニケーション的用法、情報収集的用法という別の二種類の用法を持つことが示唆する。また、ウェブログ閲覧というCMCがFtFにおけるコミュニケーションと同様の心理的効用を持つことも示唆する。
しかしこの研究では、ウェブログのどういった特性によって読者のどういった欲求が満たされるのかということについて言及できるほどではない。今後は、ウェブログの書き手、読み手の性格特性や心理的効用も含め、ウェブログのウェブログとして独自の効用や、同じように人気を博しているSNSとの違いなどを、とりわけこれまでなされなかった読み手の視点からの研究がなされることが期待される。