「携帯メールの利用が主観的幸福感に及ぼす影響」

片岡千鶴

 本研究は、携帯メールの利用による対人関係やストレス、主観的幸福感への影響について検討することを目的とした。具体的には、第一点として相手によって適切な行動をとることができるといった対人行動のコントロール能力の高さが、携帯メール利用を通して対人関係、さらに主観的幸福感に与える影響を検討した。そして第二点として、携帯メールへの依存が、携帯電話を常に持つことへの義務感や相手に求める返信速度といった利用の際の心理を媒介して、ストレスに与える影響を検討した。さらに第三点としては、携帯メールへの依存によるストレスが高い人にとっての、対人行動コントロール能力の重要性について検討した。また、本研究に必要なデータは、質問紙調査によって明治学院大学社会学部の学生から得た。
 得られたデータを分析した結果、対人行動コントロール能力が高いほど、携帯メールの利用を通して親友との関係の良さ、友人数、友人との関係の良さが高いことが示された。しかし親友数には効果が見られず、ここから携帯メールには、友人関係を広める効果や元々とても親しかった相手との関係をより深める効果はあるが、利用によって普通の友人との関係が親友とよべるほど非常に深いものになって親友数が増える、というわけではないことが示唆された。そして、このようにして強化された親友関係は主観的幸福感を高める働きがみられ、親友関係が相対的に良くない場合には、登録メールアドレス数にうかがわれる広く浅い付き合いから友人数を増加させて主観的幸福感を高めている可能性が示された。また、携帯メールへの依存度が高いほど携帯義務感や相手に求める返信速度が高く、メールのやり取りに伴うイライラした感情が強い一方、携帯メールへの依存度が高いほど相手の返信速度や自分の返信速度を媒介して、束縛感が低いことが示された。ここから、携帯義務感や相手に求める返信速度等を媒介して、携帯メールへの依存は、イライラした感情を高め束縛感を低めるという逆方向の働きを同時にもっており、一概にストレスを助長しているわけではなく正負両面があることが示唆された。さらに、こうした携帯メールによるイライラ度が高い人にとってのみ、対人行動コントロール能力が主観的幸福感に重要であることが示されたが、対人関係の充実等の要因は関係がなく、何か他の媒介要因の存在が示唆された。また、束縛感について主観的幸福感は、束縛感が低く対人行動コントロール能力が高い群で最も高く、束縛感が高く対人行動コントロール能力の低い群で最も低かった。ここから、対人関係の量・質からみた生活の質が両群で異なることで、主観的幸福感に差が生じているのではないか、ということが推測された。