本研究は、シニアの消費行動の規定要因を検討するものであった。昨今、量的にも活発な消費を楽しみ、質的にも能動的な消費行動をとるアクティブ・シニアが大いに注目されている。このようなシニアとそうでないシニアの間には、どのような心理的規定要因が存在しているか、が本研究の問題意識であった。そこで、彼らシニアの消費の量的な「消費活発度」と、質的な「オフェンシブさ」、これらの差異を規定する要因を明らかにするための分析を行った。
このような研究を実施する背景として、わが国の急速な人口高齢化とそれに伴う個人金融資産のシニア偏重が挙げられる。また、健常な前期高齢者の増加、団塊世代のライフステージの変化は、シニア資産の偏重とともに、今後のシニア市場の急速な拡大を意味している。そういった意味で、本研究は社会的に大きな意義を持つものだと考えた。
本研究では、シニアの消費行動の量的・質的差異を規定するものとして、主観的経済状況、健康度、主観的な若さ、主観余命、老いに対する受容性、積極性、規範意識、そして家族関係といった要因を想定した。これは本研究において想定しているアクティブ・シニア像が、「経済的にも健康的にも恵まれ、自己を主観的に若く見積もり、自己の老後に対してもポジティブに捉えているシニア」というものであったためである。また、「老いては〜すべき」といった規範意識にとらわれず、家族関係も良好なシニアほどオフェンシブな消費行動を取ると考え、これらの変数を準備した。
以上をふまえ、本研究では以下の四つの仮説を立てた。
A.経済状況の良好さ、健康さ、主観的若さ、主観余命の長さは、老いに対する受容性を高め、その結果として消費活発度を高めるだろう
B. 経済状況の良好さ、健康さ、主観的若さ、主観余命の長さ、老いに対する規範意識の低さは、老いに対する積極性を高め、その結果として消費活発度を高めるだろう
C. 老いに対する受容性・積極性の高さ、規範意識の低さは、オフェンシブな消費志向を高めるが、ディフェンシブな消費志向を高めはしないだろう
D.老いに対する積極性・受容性は、オフェンシブかつ老いに受容的な消費志向を高めるだろう。また、主観的若さと規範意識の低さはオフェンシブかつ老いに拒否的な消費志向を高めるだろう。さらに、家族関係の良好さは、家族を重視したディフェンシブな消費志向を高めるだろう
これらの仮説に基づき、埼玉県川口市在住の45歳以上75歳未満の男女550名に対する質問紙調査という方法で調査を実施した。有効回答数は175人で有効回収率は32.6%であった。
このサンプルを仮説に基づいて重回帰分析・パス解析によって分析した。その結果、仮説Bがあまり支持されない一方で、仮説Aはよく支持された。これにより、経済状況と健康に恵まれ、自己を若いと知覚し、老いに対する規範意識にとらわれないシニアほど、自分自身の老いに対して受容的・積極的になり、結果として活発な消費量を楽しむという心理的プロセスが明らかになった。
また仮説C、Dもよく支持された。その結果、老いに対して受容的かつ規範意識にとらわれないシニアほど、オフェンシブな消費を志向する傾向が明らかになった。さらに、自己を若いと知覚しているシニアほど、オフェンシブかつ老いに対して拒否的な消費を志向する傾向が判明した。一方で、老いに対して受容的・積極的なシニアは、オフェンシブではあるが老いを拒否しない消費を強く志向する傾向が出た。
ディフェンシブな消費については、これを志向するシニア像は明らかにならず、本研究の課題として残された。しかし、家族関係が良好なシニアほど家族への投資という側面が強い防衛的消費を強く志向する傾向がみられた。また、高齢で主観余命の長いシニアほど、自己防衛の必要性を高く認知し、家族への投資以外のディフェンシブな消費を強く志向するという傾向が示された。
以上の分析から判明した結論は大きく分けて二つであった。一つは、健康と経済状況に恵まれ、「自分は若い」と知覚しているシニアは、そうでないシニアに比べてこれからの老後の生活、老いて行く自分自身に対して受容的な態度を持っているゆえに、消費行動においても積極的で活発なスタイルを形作っているというプロセスである。
もう一つは、「老いては〜すべき」という規範意識が低く、かつ自分が老いていくことに対して受容的であるシニア、それは「老い」をネガティブな変化と捉える発想がないシニアほど、オフェンシブな消費を志向するという傾向である。