本研究では、まず、人がシャイであるとはどういうことなのか、ということに焦点を当てた。人が生まれた時点でシャイである、ということは考えにくく、人がシャイになっていく過程では、その人の育った環境が影響すると考えられる。日本人はシャイであると言われているが、これは日本の文化の影響を受けていると考えられる。比較文化社会心理学では、日本には「集団主義」、欧米には「個人主義」という文化があるとされている。さらに、集団主義的な人とシャイな人は、他者の目を意識するという点で共通していると予想される。そこで、本研究では、日本人が欧米人よりもシャイであるのは、日本人が欧米人よりも集団主義的であることが原因なのではないか、という予測を立てた。それに基づき、「シャイネス」、シャイネスと関連がある概念といわれている「公的自己意識」、「集団主義的傾向」、集団主義の重要な要素といわれている「調和傾向」、集団主義と関連がある概念といわれている「親和傾向」と「拒否不安傾向」の六つの概念を扱い、各概念間の関連を見ることを目的とした。そして、仮説1として「シャイネスと調和傾向には正の相関が見られるだろう。」、仮説2として「シャイネスと集団主義的傾向には正の相関が見られるだろう。」、仮説3として「シャイネスと親和傾向には負の相関が見られるだろう。」、仮説4として「シャイネスと拒否不安傾向には正の相関が見られるだろう。」、仮説5として「シャイネスと公的自己意識には正の相関が見られるだろう。」というものを考えた。大学生100名を被験者とし、これらの六つの概念を測定する質問紙形式で回答してもらった。各概念間の相関をとったところ、仮説1と仮説2と仮説5は支持されなかったが、仮説3と仮説4は支持された。これより、日本人が欧米人より相対的にシャイで、かつ集団主義的であっても、その二つの概念の性質は異なっていると考えられた。本研究の多くの結果は先行研究と一致していたが、シャイネスと公的自己意識との間に相関が見られなかったことは、先行研究と異なった結果であった。この結果と、公的自己意識と調和傾向・集団主義的傾向との間に正の相関が見られたことより、今回の研究では被験者にとって、公的自己意識がシャイネスではなく、調和傾向・集団主義的傾向に近い概念としてとらえられていたと考えられた。また、仮説2は支持されなかったが、集団主義的傾向が、親和傾向と拒否不安傾向を媒介してシャイネスに与える影響が見られ、集団主義的傾向が親和傾向を媒介してシャイネスに与える影響は負であるのに対し、集団主義的傾向が拒否不安傾向を媒介してシャイネスに与える影響は正であって、それらの効果が逆で相殺されたため、仮説2は支持されなかったのではないかと推測された。さらに、公的自己意識が高く、集団主義的傾向が高いほど、親和傾向と拒否不安傾向が高くなるという結果も得られた。今回の研究では相関関係しか見られないため、因果関係を結論付けるためには、独立変数を操作したり、他変数を統制したりするなどのさらなる実験的研究が今後の課題であろう。また、今回の研究では被験者の大部分が東京大学の学生であり、公的自己意識の値が偏っていたので、今後は偏りのない被験者を対象とする必要があるだろう。また、相対的に集団主義的ではない人々など、いろいろな文化に属する人々を対象とした、比較文化の研究も望まれる。