学力低下の最大の原因は何か。
学生の学力低下が叫ばれるようになって久しい。学力低下は学習意欲の低下がもたらすと考えられており、社会情勢、経済状況、ゆとり教育を含めた教育内容など様々な要因がメディアで取り上げられている。同時に意欲向上のための最良な教育方法もさかんに議論されている。確かに、小中学生には最適な教育環境が最高の意欲向上をもたらしやすいのは理解できる。しかし、教育内容や指導方法が高校生そして大学生の学習意欲を直接的に高める効果を持つかは、客観的にも主観的にも疑問を抱かざるを得ない。
では高校生や大学生にとって学習意欲および学力に最も影響のある要素は何か。本研究では学生の学習意欲に効果を及ぼす要素として、学生の学校以外での活動(課外活動)と会話量に注目した。友人との付き合いが深くなる高校生・大学生にとって、他者とのコミュニケーションが学生自身の意思決定に大きく影響していることは想像に難くない。ならば、学習意欲にもコミュニケーションが強く関わっているのではないかと予想した。コミュニケーション形態にも注目し、学習意欲には特に集団的な課外活動の傾向が関わっていると考えた。
本調査は、高校生および大学生の会話量と学習意欲の関連を目的に、東京都の高校1年生と東京都・山梨県の大学1年生に質問紙調査する形で行われた。高校調査では、東京都から確立比例抽出で選んだ44校のうち、8校13クラス501名の回答を得ることができた。大学調査では、調査に協力してくれた大学2校3クラス188名の回答を得ることができた。
仮説は、学習意欲に関する「高校生大学生ともに、集団的な課外活動が多いほど他者との会話量が増える。」「高校生は、集団的な課外活動が多いほど学習意欲が減るが、大学生は、集団的な課外活動が多いほど学習意欲が高まる。」「高校生大学生ともに、他者との会話が多いほど学習意欲が高い。」という3つの仮説を、成績に関する「高校生大学生ともに、課外活動による会話量の多さは、成績と結びつかない。」「高校生は学習意欲が高いほど成績も良いのに対し、大学生は学習意欲と成績が結びついていない。」という2つの仮説を、学校別比較に関する「偏差値高群の高校では会話量が学習意欲に正の効果をもたらすが、偏差値低群の高校では会話量が学習意欲に負の効果をもたらす。」「課外活動の種類で、会話量と学習意欲の間の正の効果が変わる。すなわち高校生大学生ともに、個人的活動が多い人は、会話量が学習意欲に及ぼす正の効果が弱まる。」という2つの仮説を、それぞれ検討した。
分析の結果、学習意欲についての仮説では、集団的活動傾向が強いほど会話量に直接的な負の効果を及ぼすことがわかった。しかし、集団的活動傾向が会話量を増やし、会話量の増加が学習意欲を高めることで、学習意欲への間接的な正の効果があることが示された。
この効果は高校生にのみ見られた。
次に成績についての仮説では、主要な要因だと予想していた集団的活動傾向や会話量、学習意欲はいずれも成績に効果を示さなかった。しかし、勉強・習い事傾向すなわち自発的な学習が媒介すると、学習意欲が成績に及ぼす効果が有意に増すことが、考察から示された。
最後に学校別比較についての仮説では、高校偏差値高群と低群で学習意欲に対して異なる変数の効果が見られた。個人的活動高群と低群とでは、高校生大学生ともに一貫した勉強・習い事傾向への効果が見られた。さらに、個人的活動高群は、低群に比べ会話量が学習意欲に及ぼす効果が少ないこともわかり、活動傾向による学習意欲の変化が示唆される結果となった。
この他に、ストレスと会話量及び学習意欲の効果、恋人の有無と成績の効果など、仮説にはない重要な要素があることが示唆された。特にストレスと学習意欲の関連は、今度に残された重要な課題である。
高校生大学生ともに、世間一般で言われているほど、学習意欲と成績は結びついていないということがわかった。意欲を抱くだけでなく、実際に机に向かうことによって始めて成績向上につながるという結果は、学生にとって大変意義深いものである。これからは生徒同士の集団での会話の場を多く設けることと自発的に勉強させることを同バランスで並行させるのがよいのではないか、と学校教育への一提案ができた。学校そして集団行動は窮屈なだけではなく、たくさん「話す」ことで可能性が無限に広がる神秘の空間だったのだ。