本研究では、今大きな変化をむかえつつある中高年の心理状態について考えるため、消費行動に注目した。
消費行動の先行研究は、消費によってライフスタイルや価値観の分類を行なうものが多く、心理的要因と消費行動の関係を検討するのには適さなかった。そこで消費を、「楽しみ」を重視したオフェンシブな消費と、「自分の生活を守る」こと重視したディフェンシブな消費に分けた。その理由は、「楽しみ」と「守り」こそが、「豊かな時代に育ったため、過去の中高年層よりも人生を楽しむことを良しとし、しかしながら高齢期が伸びたために、過去の中高年層よりも一層生活を守る工夫が必要となった」現在の中高年層を理解するためのキーワードと考えたからであった。
また、その消費行動に影響を与える心理的要因として、人生満足度と老いに対するポジティブさというものを考えた。それは、これまでの人生と、これからの人生の見通しのギャップの有無が、消費行動に影響を与えると考えたからであった。
よって、本研究での仮説は、「消費行動にはオフェンシブなものとディフェンシブなものがあり、規定要因はそれぞれ異なる」というものと、「人生満足度と老いに対するポジティブさの高低の関係により、消費行動が異なる」というものとなった。
調査方法は、埼玉県川口市に住む45歳から74歳までの男女を対象とした郵送調査で、回収率は31.82%(175/550)であった。
結果は、仮説をかなり支持するものとなり、12種類の消費項目は消費意欲とオフェンシブ消費・ディフェンシブ消費に分けられた。また、それぞれの消費は規定要因が異なり、年齢別に見ても規定要因には差があった。人生満足度は直接消費行動に影響を与えなかったが、老いに対するポジティブさに影響し、老いに対するポジティブさはいずれの消費行動にも影響していた。また、この2つの変数を高群・低群に分けて、消費行動に関して分散分析を行なうと、交互作用が見られ、消費意欲とオフェンシブ消費に関しては、人生満足度が高ければ、活発だが、低くても、老いに対するポジティブさが高ければやはり活発であるという傾向が見られた。
年齢別のより詳しい分析とディフェンシブ消費の規定要因を特定することが不十分であったことが、本研究の課題として残った。