情報感度や情報源の違いが、ブランドに関する意識に与える効果

飯田純子

 我々が買い物をする際に、「ブランド」は非常に重要な要素となる。ブランド選択は、現代社会においての消費行動では避けて通れない過程であると言えるだろう。だが、あらかじめ何を選ぶか決めている人、現物を見てさんざん悩む人、ほとんど何も考えずにパッと選んでしまう人など、その意思決定のスタイルは各個人によって大きく異なるものである。高級ブランドや有名ブランドの品に価値を見出す人とそうでない人がいる。さらに、特定のブランドをずっと使い続ける傾向が強い人もいれば、あれこれと試してすぐに他のブランドに乗り換える人もいる。そのような「ブランドに対する意識は何によって左右されるのか」という疑問をリサーチクエスチョンとした。そして、適切なブランド選択に必要になってくるのが「情報」である。テレビやインターネットなどのメディアから、家族や友人といった身近な人との会話から・・・現代社会ではさまざまな所からさまざまな情報が手に入る。その情報の量や種類がブランド意識に何らかの効果を与えるのではないか、と考えた。そこで本研究、ブランド意識に対する情報の効果を明らかにすることを目的とした。そして、以下の3つの作業仮説
1.同調傾向が強い人は、周囲の情報に敏感になり、ブランド志向が強くなる。
2.情報が多い人ほど、ブランドスイッチしやすい。
3.身近なネットワークからの情報に頼る場合よりも、マスコミ等から広範囲にわたって情報を収集する場合のほうが、ブランドスイッチしやすい。
を立てて、調査と分析を行った。
本研究は、大学生を対象とした質問紙調査によって行われた。学習院大学の学生を対象とし、心理学の授業中に受講者に質問紙を配布し回答してもらい、回収した。有効回答数は320名で、データの分析には統計ソフトのSPSSとSTATAを使用した。
そして分析の結果、以下のような知見が得られた。
まず、ブランド志向については、同調傾向が強いと強まることがわかった。同調傾向が強いと情報波及力が強まり、ブランド志向を高める効果も見られたが、同調傾向自体のほうがブランド志向を高めるには効果は大きかった。すなわち、仮説1は、同調傾向がブランド志向を高めるという点では支持されたが、情報感度が高まることを媒介するという点では完全に支持されたとは言えなかった。
次に、情報量とブランドスイッチしやすさの関係については、情報が多いほどブランドスイッチはしやすくなっていた。よって、仮説2は支持された。情報量のほかにブランドロイヤリティやブランドスイッチのしやすさへの効果を持っている変数は、以下のとおりであった。関与が高いほど、ブランドロイヤリティは高かった。情報欲求や情報波及力が強いほど、ブランドスイッチはしやすくなっていた。ブランドロイヤリティは低いほど、ブランドスイッチはしやすくなっていた。そして、ブランドスイッチへのこれらの効果は、インターネット上で情報交換ができる環境が整っている製品において、特に顕著に見られることがわかった。
マス情報源と近隣情報源では、ブランドスイッチに与える効果の程度に差は見られなかった。よって、仮説3は支持されなかった。また、情報欲求・情報波及力とマス情報源・近隣情報源のそれぞれ4つの交互作用を見たところ、情報波及力とマス情報源、情報波及力と近隣情報源の交互作用の2つは、スイッチしやすさについて有意な効果を持っていた。情報波及力が低いほうが、ブランドスイッチしやすさについて情報源の効果を大きく受けると言える。
また、スイッチしやすさに効果を持つと予想した情報欲求、情報波及力、マス情報源、近隣情報源は正の効果を、ロイヤリティは負の効果を持っており、全ての変数が有意な効果を持っていることがわかった。そして、情報欲求・情報波及力といった情報感度が強いと、マス・近隣の両方の情報源に多く頼り、ブランドスイッチしやすくなるというモデルが成立していた。
本研究の問題点としては、以下の2点があげられる。1点は、サンプルの属性とその扱いについてである。本研究では学生のみをサンプルとして扱ったが、情報源の分布にサンプルの偏りによるものと思われる影響が出ており、仮説検証にも影響を与えていた。今後の研究では、選択したサンプルならではの特性を考慮し仮説に組み込んで、それぞれのサンプルごとのモデルを構築する研究が必要であると思われる。もう1点は、関わる要因の複雑さについてである。購買行動では、細かいさまざまな要素が複雑に絡み合っており、本研究で扱った要素はその中のごく一部である。本研究で用いた変数のみを見ても、数多くの変数が互いに効果を与え合っている。さらに、今回想定した因果関係とは逆方向の効果なども、見られるかもしれない。さらなる精密なモデルを検討したり、他の変数との関連などを検討したりする必要があるだろう。