ネットクチコミの説得力に影響を及ぼす要因の検討

小貫麻衣

本研究では、インターネットの発達にともなって私たちの生活に広く普及し始めている、インターネット上の口コミに着目した。
ネット口コミと、従来の対面コミュニケーションにおける口コミとでは、情報源が知人か見知らぬ他人かという違いがある。対面コミュニケーションにおける口コミは、情報源はそのコミュニティ内の家族や友人、知人などであるのに対し、ネット口コミは不特定多数の他人から情報を得るという形を取る。
このような違いから、口コミから感じ取る説得力の規定要因が、対人コミュニケーションの口コミとインターネットの口コミとで異なるのではないかと考えられる。対人コミュニケーションにおける口コミでは知人に対する信頼感が口コミの信頼感、ないし説得力を規定しているが、ネット口コミではそれが存在し得ない。そのことから、それでは何がネット口コミの信頼感や説得力を規定しているのかと言う問題提起につながる。
この問題提起を踏まえ、仮説を立てるに先立って第1次分析として口コミの内容分析をおこなった。この内容分析は、「アットコスメ」というネット上の有名口コミサイトにおける書き込みの分析であり、どのような書き込みが説得力の高い書き込みであるかをこの分析から探った。この内容分析の結果としては、説得力が高い群と低い群との間に差が見られるものは2種類に分けられると考えられることがわかった。まず1つ目は、「箇条書きか否か」に見られるような「文章構成・書き方」の部分。2つ目は、「値段」「他の商品」「リピート」への言及に見られるような、商品を実際に使用した「体験談」の部分である。
また、書き込みを分析していく過程で、説得力高群と説得力低群との間で質的な特徴の違いを見出した。具体的には、説得力が低いと考えられる書き込みの特徴として、まずプラス情報とマイナス情報の区別がしにくい、あるいは伝わりにくいという点があげられる。それと関連して、全体的に何を強調して伝えたいのかがわかりにくい文章であることが多かった。また、改行などの書き方の工夫がなく、読みにくい文章も目立った。以上のことから総合的に、「読み手を想定していない、読み手に何か有益な情報を伝えようという姿勢が感じられない」文章が説得力が低いのではないかと考えられた。
以上の結果を踏まえ、本研究での仮説は「読み手を想定した読みやすい文章であるほど、インターネットにおける口コミの説得力と信頼感は高くなる」という理論仮説となった。さらに作業仮説としては、1つ目は、「文章が読みやすい(箇条書きである)ほど、信頼度が増し、説得力が高くなる」、2つ目は、「文章の体験談(良い点・悪い点を明確に述べている)がわかりやすいほど、信頼度が増し、説得力が高くなる」であった。以上の2つの作業仮説を元に調査票を作成した。
調査票の作成に際しては、内容分析の結果を利用し、4種類の条件文を作成した。それぞれの条件文が200人ずつに行き渡るようにし、条件文を読んだ上で回答してもらう質問項目を2問10項目、回答者自身に関する質問項目を4問10項目作成した。
調査方法は、東京都北区に住む 20歳以上69歳以下の住民を対象とした郵送調査で、回収率は29.5%(236/800)であった。
結果は、仮説の一部を支持するものであった。「体験談のわかりやすさ」「書き方のわかりやすさ」の2項目に関しては条件1,2,3と条件4間で有意な差が見られ、「説得力」「信頼感」の2項目に関しては条件1と条件4の間にのみ有意な差が見られた。これはつまり、書き方・体験談のわかりやすさをともに低く設定した条件4は他の3条件と比較してわかりにくいと判断された。また書き方・体験談のわかりやすさをともに高く設定した条件1と条件4との間に「説得力」「信頼感」に関して有意な差が見られたことは、書き方・体験談のわかりやすさが共に「説得力」「信頼感」に影響を与えていると考えることができる。 
しかし、条件1、条件2(文章の読みやすさ「有り」、体験談のわかりやすさ「無し」)と条件3(文章の読みやすさ「無し」、体験談のわかりやすさ「有り」)の間では有意な差が見られなかったため、仮説が完全に支持されたとは言えない。
また、探索的に得た男女間での有意な交互作用からも、「体験談」「書き方」をわかりやすいとしている方が、「説得力」「信頼感」が高いという結果が得られている。男女間で異なる条件をわかりやすいと感じ、それに従って「説得力」も「信頼感」も男女間で差が出たことが、これを示していると言える。
しかし、問題点として、条件文の統制が不十分であった可能性が否定できない点、条件文がきちんと統制されているかどうかを測定できるような質問項目が不十分だったため、明確に「条件文の統制により差が出た」と言い切ることができなかった点の2点が考えられ、本研究の課題として残った。