政策争点が投票参加に及ぼす効果
坂本陽平
目的
投票参加・棄権を規定する要因を明らかとすることを目的として、ライカーとオードシュックの投票参加モデルにおける要素の一つである「自分の一票の影響力」に対して、2005年度衆議院選挙を主な対象として分析を行った。2005年度衆議院選挙において、小選挙区比例代表並立制が導入されて以来最も高い投票率となった要因の一つとして、自分の一票の影響力を高く評価したことが挙げられると考えた。さらに、自分の一票の影響力に対して、主要争点として扱われる3条件を満たした「郵政民営化」という政策争点が及ぼす効果を検討した。
投票率を規定する要因を特定することで、近年進行する若年層の投票率低下に歯止めをかける方策の考案に結びつくと考え、研究を行った。
方法
分析対象としてJESVを用いた。JESVとは、2001年度参議院選挙より開始された全国パネル調査である。母集団は、日本に居住する満20歳以上の男女個人、標本数3000人、抽出法は層化2段無作為抽出法であり、調査方法は調査員による個別面接聴取法によって実施された。2005年度衆議院選挙まで、同一サンプルによる継続調査が行われた。
結果
「主要争点として扱われる3条件を満たす争点がある選挙では、その争点に対して主流の意見を持つ人ほど、自分の一票の影響力を高く見積もる」という仮説をもとに、2005年度衆議院選挙において3条件を満たす争点である郵政民営化の効果を測定したところ、仮説を支持する結果が得られた。郵政民営化に対して賛成である人ほど、自分の一票の影響力を高く評価することが明らかとなった。郵政民営化に賛成であるほど、政治を分かったつもりになると考え、政治を分かったつもりになるがゆえに一票の影響力を高く評価する、という間接効果もやや見られたが、直接効果よりは小さかった。
ついで、「自分の一票の影響力」の上昇の要因を明らかにするために、「主要争点として扱われる3条件を満たす政策争点に対して、主流となる意見を持つ人ほど、前回の選挙より自分の一票の影響力を高く見積もるようになる」という仮説をもとに2004年度参議院選挙と2005年度衆議院選挙を比較して行った分析では、有意な結果が得られなった。
考察
有意な結果を得られなかった原因は、自分の一票の影響力に効果を持つ統制変数が不足していたこと、郵政民営化に賛成意見を持つ人の中には2004年度参議院選挙の時点で一票の影響力を高く評価している人も含まれていたことが挙げられると考えた。その問題点を考慮した追加分析を行ったところ、統制変数である世帯年収の増減が一票の影響力の増減に効果を持つことが分かった。さらに、2004年度参議院選挙時に一票の影響力を低く見積もっていた人に関しては、2005年度衆議院選挙にかけての一票の影響力の増減に対して、郵政解散の賛否どちらかの意見を持つかが効果を持つ傾向にあることが明らかとなった。
いずれの分析も、「ある選挙において棄権をし、その次の選挙において投票参加をした」有権者を対象に行ったのではないことが本研究の問題であり、そのような有権者に対する分析を行うことが、投票参加・棄権を研究する際の今後の課題として挙げられる。