Web2.0時代のイノベーター理論 「mixiの普及プロセスに関連する個人の情報行動特性の検討」
富田克人
近年、インターネット上のサービスにおいて「Web2.0」という言葉が頻繁に聞かれるようになっている。「Web2.0的サービス」の特徴を一言で表すとすれば「ユーザー中心」のサービスだと言える。このような新たな情報環境の出現において、Kats
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Lazarsfeld(1955)やRogers(1962,1983)の提唱する「オピニオンリーダー・フォロワーモデル」は妥当性を持つのであろうか? 本研究はこのような問いからスタートした。
従来のイノベーション普及研究の知見を踏まえ、SNS・mixiの普及プロセスを題材に調査計画、理論仮説:「mixiの普及プロセスにおいては、オピニオンリーダー的な特性よりも、マーケットメイブン的な特性が強い効果を持つ」を立てた。またここから以下のようなプロセスで作業仮説を生成した。
招待制であるmixiの普及プロセスにおいて何よりも重要なのは既会員による新規会員の招待である。そのため第一に、「mixiへの新規招待数」に効果を持つような特性を検討する仮説を立てた(作業仮説@)。
次に従来のイノベーション研究の「製品・サービスの普及においてアーリーアドプターが重要な位置を占める」という知見から、mixiの普及においても初期採用層が重要であるという推論を行った。従って第二に、「mixiの採用の早さ」に効果を持つ特性を検討する仮説を立てた(作業仮説A)。
SNSサービスの発展には、会員の獲得という要素以外にも、獲得した会員の維持が重要であるという考えから、本研究では獲得した会員を維持する要素として「コンテンツとしての価値」に焦点を当てた。コンテンツの価値が高いほど、会員の維持は容易になると考えられる。この「コンテンツとしての価値」を個人レベルに落としたものとして、mixiにおける「マイミク数」、「マイページの他ユーザーからのアクセス数」、「日記を書く頻度」、「コミュニティ管理の有無」が考えられる。これらの項目はすべて他ユーザーを繋ぎとめる役割を果たすものである。従ってこれらの4項目に効果を持つ特性を検討する仮説を立てた(作業仮説B〜E)。作業仮説とその検証結果は以下の通りである。
@
「mixiへの新規招待数の多さ」には、オピニオンリーダー的な特性よりも、マーケットメイブン的な特性が強い正の効果を持つ 支持
A 「mixiの参加時期の早さ」には、オピニオンリーダー的な特性よりも、マーケットメイブン的な特性が強い正の効果を持つ 支持
B 「mixiのマイミク数の多さ」には、オピニオンリーダー的な特性よりも、マーケットメイブン的な特性が強い正の効果を持つ 支持
C 「mixiのマイページのアクセス数(他ユーザーからの訪問数)の多さ」には、オピニオンリーダー的な特性よりも、マーケットメイブン的な特性が強い正の効果を持つ
不支持
D 「mixiの日記頻度の高さ」には、オピニオンリーダー的な特性よりも、マーケットメイブン的な特性が強い正の効果を持つ 不支持
E 「mixiのコミュニティ管理の有無」には、オピニオンリーダー的な特性よりも、マーケットメイブン的な特性が強い正の効果を持つ 不支持
(@は伝播、Aは採用、B〜Eは活性化に関する仮説)
以上の結果から本研究の知見は、「mixiの採用・伝播においては、オピニオンリーダー的な特性よりも、マーケットメイブン的な特性が効果を持つと言う事が出来る一方で、サイトの活性化に関しては両特性とも有意な効果を持たない」と要約できる。本研究で示された「mixi普及プロセスにおけるマーケットメイブン的特性の影響力の強さ」は、「専門的な情報を持った人間がフォロワーに伝達する」という旧来のオピニオンリーダー研究が示してきた情報流通モデルに疑問符を投げかけ、「情報収集にも情報発信にも積極的な人物が周囲の人びとを巻き込んでゆく」という新たな情報流通モデルを提示したと言えるだろう。今後の研究課題としては情報流通モデルと「影響力保持者因子」の関連を検討する方向性があるだろう。