オンラインゲームを利用した歴史教育の実践とその効果
富安 晋介
現代社会において、人々の生活にはテレビや映画といったコンテンツ産業は人の生活を豊かにする重要な産業である。その中の主要な産業の一つとして、デジタルゲームが存在する。デジタルゲームが、参与型のメディアであるという特性を考えると、デジタルゲームが人に与える影響は大きい。だが、現状ではデジタルゲームに関する研究はまだ不十分であると言わざるを得ない。今回の研究は、デジタルゲームの持つ豊かな利用可能性の一つとして、教育目的の利用について検討した。
デジタルゲームの中でも、近年注目されているのが、オンラインゲーム上で複数の人間が同時にゲーム空間を共有する、MMORPGである。MMORPGでは人と人との間に豊かなコミュニケーションが生じるため、MMORPGをプレイすることによって社会性が伸びるという先行知見が得られている。それに加え、ゲームという仮想空間における成功体験がそのゲームにおける学習を促進するという知見に基づき、今回の研究では高等専門学校歴史の授業時間を利用して、歴史をモチーフとしたゲームを使用し、社会的スキルおよび歴史に対する関心度が向上するかを調べた。ゲームには、大航海時代をモチーフとしたゲーム、『大航海時代
Online』(コーエー, 2005)を使用した。
実験参加校は、香川県の高等専門学校であり、1〜2年生の7クラスを「ゲーム中での課題を与え、それを達成するように指示した群」・「自由にゲームをプレイさせる群」・「従来の教科書および視聴覚メディアを利用した授業を受ける群」の3つの群にクラスごとに分けた。教育効果として、事前質問紙および事後質問紙によって社会的スキル・歴史関心度の変化量を見た。ゲーム中での課題を与える群では、「ゲーム中に存在する歴史上の有名人(シェイクスピアなど)に出会い、グループのメンバーと一緒に写真を取ること」を課題とした。
分析の結果、「ゲームのみ群」では歴史関心度が有意に正の方向に変化していることが分かり、また分散分析を行ったところ、「ゲームのみ群」と「教科書群」の間で、歴史関心度の変化量に有意差が見られ、ゲームのみ群は教科書群よりも正の方向に有意に変化していたことが分かった。また、探索的に、何が歴史関心度の変化量を規定しているのかを重回帰分析によって分析したところ、「『大航海時代Online』を面白いと思ったかどうか」が、「ゲームのみ群」および「ゲーム課題群」の両群で歴史関心度の変化量と強い正の関連があった。
今回得られた結果から、『大航海時代
Online』は歴史関心度に正の効果をもたらすということがいえるだろう。また、ゲームを利用した歴史学習においては、そのゲームを面白いと感じたかどうかが歴史関心度に強い影響をもたらす、という事が重回帰分析の結果から示唆された。ただし、今回の質問では「面白いと思ったかどうか」という単純な質問でしかなかったため、どの、どういった部分の面白さが歴史関心度に影響していたのかが不明瞭であった。ゲーム課題群においてより強く歴史関心度にゲームの面白さが影響していたのは、課題を与えたことによってゲームのプレイスタイルがある程度統制できたことが原因であると考えられる。さらに、今回調査を行った歴史関心度はあくまでも自己報告によるものであるため、それが一時的なものである可能性もある。今回得られた歴史関心度が長期的な動機づけに役立つのかといった更なる調査が必要であろう。
今回の研究では支持されなかったソーシャルスキルといった社会性の部分について、長期的な効果やCMCとFtFのハイブリッドな研究を進めることと、どういった面白さがどのように学習に影響しているのかを検討していくことが今後の課題となる。本研究はCRESTプロジェクトの5年計画の1年目であり、今回の研究を土台として、更なる研究を行いたいと考えている。