流行採用の規定因とイノベーターの個人特性を探る

米田直紀

流行という現象は社会が存在するところには必ずといっていいほど存在し、多くの社会心理学者の心を捉えて離さない。近年の日本ではCancamやJJを始めとした女性誌の隆盛により、様々な流行アイテムが生み出されている。しかし、これまでの流行を扱った研究は年齢や性別、世帯収入などの基本的生活属性によって説明を試みるものや、流行の採用者を個別に研究したものなどが主で、何がイノベーターやオピニオンリーダー(両者を合わせてファッションチェンジエージェントと呼ぶ)やファッションフォロワーなどの流行採用者カテゴリーを規定するのかは明らかにされてこなかった。では、流行採用を規定しているのは何か。本研究は流行は情報であるという考えのもと、流行採用には刺激欲求や情報交換のコミュニケーションを行うためのネットワークが重要であると考えた。また、オピニオンリーダーのパーソナリティ特性は特に他者と変わらないという研究は報告されているが、同じファッションチェンジエージェントであるイノベーターのそれについてはこれまでのところ余り論じられていない。そこで、本研究ではイノベーターのパーソナリティ特性についても検討することにした。
ファッションチェンジエージェントは刺激欲求が強く、社会の価値からの逸脱者であり流行を作り出すイノベーターはネットワークが閉じているが、イノベーターが作り出した新しい流行をキャッチし、説得的コミュニケーションによって社会に広めていくオピニオンリーダーはネットワークが開いているだろうと予測した。また、先のイノベーターの特徴を考えると、イノベーターは既存のアイテムに満足できない採用者であると予測され、常に最高の結果を求める最適志向性が高いと考えられる。対してフォロワーは、流行アイテムは他の多くの人々も使っているものであり、安心感や満足感を得やすいがゆえに、ヒューリスティックによる満足の基準として、流行を用いているのだと考えられる。以上のことから以下の作業仮説を立て、調査を行った。

@刺激欲求が強くなるほどファッションチェンジ傾向が強くなる。
A刺激欲求が弱くなるほどファッションチェンジ傾向が弱くなる。
Bファッションチェンジエージェントにおいては、ネットワークが開いているほどオピニオンリーダー傾向が強くなる。
Cファッションチェンジエージェントにおいては、ネットワークが閉じているほどイノベーター傾向が強くなる。
D最適志向性が強くなるほどイノベーター傾向が強くなる。
E満足志向性が強くなるほどファッションフォロワー傾向が強くなる。

調査は2006年10月12日に上智大学で、10月17日に明治学院大学で学部学生計333人を対象として行った。分析を行った結果、作業仮説B以外の五つの作業仮説が支持された。作業仮説@とAが支持されたことにより、刺激欲求が強くなればなるほど、流行を作り出したり広めたりする傾向が強くなることが示唆された。また作業仮説Cが支持されたことで、流行を作り出す役割を果たすイノベーターは閉じたネットワークを組むことがわかった。さらに作業仮説DとEが支持されたことで、イノベーターのパーソナリティ特性として、最高のアイテムを求め続ける最適志向性が強いということや、フォロワーは満足の指標として流行を用いていることが示唆された。作業仮説Bは支持されなかった。つまり、情報伝達役であるオピニオンリーダーが持つネットワークの組み方は今回の調査では明らかにされなかった。近年ではマーケットメイブンやオピニオンブローカーといった従来のオピニオンリーダー像とは異なるリーダー像が提示されている。従来のオピニオンリーダーを測定する尺度で行った今回の調査で仮説が支持されなかったことは、従来から考えられてきたオピニオンリーダー像で流行採用を説明しようとするモデルの限界を示していると考えられ、今後は新しいリーダーを考慮にいれた検討が必要となるだろう。