Illusory correlationの商業分野への応用について
長谷部学
Illusory correlationとは、錯誤相関と訳される現象で、一般的には二つの事象間の関連において、事実とは異なる認知がなされることを指す。錯誤相関の研究は、言語、社会関係、認知的記憶など様々な分野で行われてきており、特に情報の少ないネガティブな事象に関しては、本来と比べて過大な悪印象に繋がるという知見は頑健である。
現代は情報に溢れており、ふとした機会に特別な注意を払うでもなく何らかの製品に対する情報を目にすることは少なくないだろう。そんな際に目にする製品情報はどこの会社の、どんな製品だったかを完全に覚えているわけではないが、かといって全く覚えていないわけではない。そのような曖昧な情報が積み重なっていく内に、そうした情報にも多寡が生まれ、そこから錯誤相関も生じて印象形成に影響を与えてくるのではないか。そう思ったのが本研究のきっかけである。
そのため、本研究ではまず第一に「錯誤相関は商業的な分野においても起こる」という仮説の検証を考えた。さらに、意識の仕方によって、情報の印象の残り方は変わってくると考え、製品情報を見る際にそれを作った会社の評価を考えるよう教示する条件と製品情報を見る際に、その製品に対する評価を考えるよう教示する条件と特に何も教示せずに製品情報を見てもらう条件との三条件を設け、「会社を評価する条件と商品を評価する条件では何も教示しない条件よりも情報を正しく処理しやすいため、錯誤相関が起こりにくい」という仮説を検証することにした。
これらの仮説を検証するため、二つの会社(実験のために作った架空のもの)の内どちらの製品化を特定するする情報と製品の善し悪しに関する情報が記述されたスライドを27枚提示することにした。このスライドには「多い方の会社の良い製品の情報」が12枚、「多い方の会社の悪い製品の情報」が6枚、「少ない方の会社の良い製品の情報」が6枚、「少ない方の会社の悪い製品の情報」が3枚書いてある場合と、逆に悪い製品の情報の方が12枚ないし6枚になっている場合のどちらかがあり、被験者はそのどちらかのパターンに割り当てられる。このスライドを見た後、被験者に「多い方の会社の良い製品の情報」、「多い方の会社の悪い製品の情報」、「少ない方の会社の良い製品の情報」、「少ない方の会社の悪い製品の情報」のそれぞれについて、スライドが何枚ずつあったと思うか答えてもらったり、二つの会社を様々な角度から評価してもらったりする質問紙に回答してもらった。
その結果、良い製品の情報が多い条件では多い方の会社の印象が少ない方の会社の印象よりも良いという結果が得られた。これは、良い製品の情報が多いため、少ない悪い製品情報と少ない方の会社という少ない情報の顕著さが錯誤相関を引き起こしたという意味で、錯誤相関が商業的な分野でも起こることを支持する結果であった。また、同様にスライドの枚数の推定の回答もこの仮説を支持するものであった。
しかし、その逆、悪い製品の情報が多い条件では、特別な有意差は得られなかったので、情報の少ないネガティブな事象に関しては過大な悪印象を持つことになるという錯誤相関は商業的な分野においても起こることが示されたが、情報の少ないポジティブな事象に関しては過大な好印象に繋がるかどうかについては検証できるには至らなかった。
また、「会社を評価する条件と商品を評価する条件では何も教示しない条件よりも情報を正しく処理しやすいため、錯誤相関が起こりにくい」という仮説については支持されなかったが、これはスライドが変化する速度が速すぎたためであるとも考えられる。
仮説検証自体としては、ここまでの話なのだが、今回情報の少ないポジティブな事象に関して過大な好印象に繋がるという結果にならなかったことに関して、商業分野ではポジティブ情報の顕著性が極めて低く、そのため、ネガティブ情報の顕著性が他の分野に比べて相対的に高いのではないか、という可能性が提起された。ネガティブ情報の顕著性が高く、多量の情報の中でネガティブ情報ばかりが印象に残るのであれば、情報が多く出回る企業にとっては対策を講じないと大きな痛手になるだろう。
本研究だけでは商業分野におけるポジティブ情報・ネガティブ情報の顕著性に関しては検証不足であるため、今後の検証が待たれるところである。