Mixi参加者におけるバーンアウト傾向:ネットワーク上のストレスがコミュニティからの離脱に与える影響

外薗 賢

近年インターネット上のコミュニティでおこるネットワーク疲れが問題となっているが、本研究では、ネットワーク上のコミュニティでも日本のSNSのなかで最も利用者数の多いSNSであるmixi上のバーンアウト(燃え尽き症候群)について議論する。

新しいコミュニケーションの手段として定着したSNSであるが、SNSのマイナス面、すなわちSNS上でおこる問題についての研究はまだ新しいといえる。本研究では代表的なSNSであるmixiを対象として、そこでおこるネットワーク疲れを、ネットワーク上のバーンアウトと捉えて検討を行った。すなわちmixi上において、人がコミュニケーションに疲れきってmixiからの疎遠になる、あるいは退会してしまうような状況、いわゆる「mixi疲れ」と呼ばれる状態に陥る場合、その原因となっているものは何か、またどのようなプロセスを経て人はコミュニティから離れていくのかを、バーンアウトの概念を用いて検討することを目的とした。

まずmixi上のバーンアウトの原因として、コミュニケーションの負担の増大および、コミュニケーションの効力感の低下が関係していると考えた。

コミュニケーションの負担の指標として、コミュニケーションを行っている相手の数(マイミク数)を用い、コミュニケーションの効力感を測定する指標として、コミュニケーションがうまくいっているかという認識、コミュニケーションのバランスがとれているかということ、コミュニケーションが失敗したときの感情など用いた。そしてこれらの項目がネットワークからのバーンアウトにどのような効果を持つか検討した。これらを検討するために以下のような仮説を立てた。

 

仮説1.「ネットワーク上のコミュニティは情報サポートを行う場でもあり、そこでおこるネットワーク疲れは、バーンアウトと似た性質を持つだろう」

仮説2.「多くの人とコミュニケーションしようとしている人ほど(マイミク数が多いほど)、対応に追われ、コミュニケーションに疲れて、ネットワークから離れたいと感じやすくなるだろう」

仮説3.「コミュニケーションがうまくいっていないと思っている人ほど、コミュニケーションの効力感を感じられなくなり、コミュニケーションに疲れて、ネットワークから離れたいと感じやすくなるだろう」は支持された。

仮説4.「自分と相手のコミュニケーションバランスが崩れると、(自分はコメントをするのに、相手は返してくれないなど)コミュニケーションにおける効力感が小さく、ネットワークに疲れを感じやすくなるだろう」

 

これらの仮説を検証するために20071025日から1221日にかけて、調査対象者に調査者のマイミクを通して、調査への参加依頼のメッセージを送った。調査対象となったのは、調査者および共同調査者のマイミクのマイミクである。回答者はメッセージに記されたURLにアクセスし、そこに設置されたアンケートフォームに回答するよう求められた(回答数236、有効回答率92.80%)。

その結果ネットワーク上のコミュニティ(mixi)におけるバーンアウトに関して、第1に、ネットワーク上のバーンアウトは、これまでバーンアウト研究が主に対象としていたヒューマンサービス職におけるバーンアウトと同じように、神経症傾向と関係していることがわかった。第2にマイミク(mixi上で友人登録した相手)の数が少ないほど、コミュニケーションの効力感や、mixiへの帰属意識が低くなり、バーンアウトの傾向が強くなることが分かった。その一方でマイミク数に関して、主観的なマイミクの数が多い人ほどバーンアウトの下位項目である個人的達成感が低いという結果が見られ、個人的達成感の低下がネットワーク上バーンアウトの原因となっている可能性も示唆された。つまり、コミュニケーションを取ろうとする相手が多すぎると、mixi上での活動に達成感を感じられなくなるという結果も得られた。第3に、コミュニケーションの効力感について、コミュニケーションがうまくいっていないと感じる人ほど、mixiへの帰属意識が低く、バーンアウト傾向が高いということが分かった。これらの結果から仮説1、仮説3は支持され、仮説2、仮説4は支持されなかった。

またバーンアウトのプロセスとしては、以上の結果から、2つのプロセスが示唆された。1つ目は、マイミクの数の少なさやコミュニケーションの効力感の低さがmixiへの帰属意識を低下させ、バーンアウト傾向を強めるという段階的なバーンアウトのプロセスであり、2つ目は、ネットワーク上のバーンアウトの原因を個人的達成感の低下と捉え、主観的にマイミクの数が多すぎると感じると、個人的達成感が低下し、バーンアウトの原因となるというものである。