雑誌購読と価値観との関連について

中井裕子

 雑誌は単なる情報検索のためのメディアではなく、ターゲットメディアとして生活者のパーソナルな側面と深く関わっており、特に女性ファッション誌はファッションだけでなくライフスタイルをも提案するものとして、若者文化に影響を与えてきた。ライフスタイルとは、人の生活の仕方、つまり人の心理的、物理的な環境への対処の仕方であり、具体的には人のお金や時間の使い方、選択する財やサービス、行動の組み合わせの型(パターン)として表れるものである(飽戸, 1994)。このようなライフスタイルは、個人の価値観(価値意識)と深く関わっていると考えられる。

 価値意識とライフスタイルは互いに関連していて、価値意識が生活に表れたものがライフスタイル、逆に個々の意見や関心事、生活行動やブランド選考などの判断の背後にあるものが価値意識ということができる。価値意識には持続性があり、それがライフスタイルと影響し合っているために、人々の生活行動、消費行動には一貫性が表れる(竹村, 2000)。

 よって、多様化するファッションに合わせて細分化し、ライフスタイルをも提示するようになった今日の女性ファッション誌を選択することは、個人の価値観によって影響を受けている、いわばライフスタイルの選択の一部と言える。反対に、ライフスタイルを提案する女性ファッション誌は、女性たちに新たな価値観を同時に提示しているとも考えられる。本研究は、この価値観と雑誌購読との関連を検討することを目的とする。

 研究1では、『CanCam』『ViVi』『Ray』『JJ』の目次データを品詞分解し、単語の出現頻度によって、似ていると考えられてきた4誌の目次(見出し)にどのような違いがあるのかを検討したとこと、4誌には「看板モデル」「海外セレブ」「異性受け」「お嬢さん」等の大きな違いが見られた。 

 研究2では、企業の実施した「生活に関するアンケート」のデータから、雑誌の閲読に関する項目や価値観に関する項目を使用し、雑誌の閲読と価値観との関連について統計的な分析を行った。7つの価値観に関する尺度(ファッション、お金、仕事、異性、自己実現欲求、情報収集意欲、イノベーター度)と年齢、雑誌閲読尺度を使用して相関分析および雑誌閲読尺度を従属変数とした重回帰分析を行った。すると、雑誌の閲読と価値観との間に関連がみられたが、研究1の結果を支持しないものもあった。

 研究3では、女子大学生4名に対しインタビュー調査を実施し、生活者の実感として雑誌購読にはどのような要因があるのか、また雑誌購読者には雑誌の提案するライフスタイルや価値観がどのように受け取られているのかを検討した。インタビュー項目は以下の5項目であった。

  @普段購読する女性ファッション誌

  A雑誌購読に至る過程(どこを見て判断するか)

  B目次(見出し)を見て雑誌を購入することはあるか

  CCanCamViViRayJJそれぞれのイメージ

  D購読するファッション誌の提案するライフスタイルや価値観に共感しているか

普段購読する女性ファッション誌の項目では、今回のインタビュー対象者は全員赤文字雑誌のいずれかを購読していることがわかった。ここからも赤文字雑誌の影響力の大きさが伺える。また、雑誌の組み合わせや、購読の頻度なども人によって様々であり、購読雑誌は気分などによって簡単に変化するものだということがわかった。

 雑誌購読の判断過程についても様々であったが、目次(見出し)だけを見て判断することはあまりなく、表紙の雰囲気や、内容(服やモデルの写真、特集など)を見て純粋に「可愛い」と思うかどうかで判断することが多いことがわかった。ただ、見出しの文章は雑誌に興味を持つきっかけになっており、そのときの自分に興味のある分野だったら見出しを見て購入することがあるということがわかった。

 雑誌の提案する価値観については、素直に共感している場合と客観視している場合、共感していなくても服やモデルが好きだから購読する場合といった、いろいろな受け止め方があることがわかった。この結果から、多様化する女性の価値観にあわせて発達してきた女性誌のライフスタイル提示であるが、その受け取り方もまた、多様化してきているのではないかと考えられる。今日の生活者は特定の女性ファッション誌に価値観を合わせることなく、自分自身の価値観でさまざまな女性ファッション誌と自由に関わっていると言えるだろう。