社会的ネットワークの形成―信頼感と安心感が及ぼす影響を中心に―
野島史暁
山岸(1998)の用いた信頼と安心の定義を元に、これらの特性が社会的ネットワークの形成にどのように影響を及ぼすのかを調査した。特に、信頼感が閉鎖的で排他的な「安心社会」ネットワークから解放するという「信頼の解き放ち」理論を確認し、さらにこの理論の内部を明らかにすることが本研究の目的であった。
本研究では理論仮説としてそれぞれの状態を好む「信頼型」「安心型」のそれぞれが、社会的ネットワークの形成に影響を及ぼすことを前提とし、信頼は社会的ネットワークを広げる方向に、安心は社会的ネットワークを狭める方向に作用することを掲げた。また、その信頼感→社会的ネットワーク拡大のプロセスの中に、関係意地力および関係系勢力の二つの要素がクッションとなって存在するのではないかという仮説も組み込んだ。すなわち、
(1)ネットワークの形成に関して、「安心型」「信頼型」の人間がいるだろう。
(2)「安心型」は信頼よりも安心を求める傾向にあり、強い紐帯中心のネットワークを築き、せまい人間関係の中にいるだろう。
(3)「信頼型」は安心感よりも一般的信頼感を求める傾向にあり、強い紐帯はもちろん、弱い紐帯で結ばれた広いネットワークを維持することに関してあまりコスト感を覚えないだろう。
信頼感を多く持っていることと、安心感を持っていることでネットワーク形成や維持へとプロセスを移すこととなるが、その結果、ネットワークそのものの多様性や強い/弱い紐帯へのアクセスにどのように影響があるのかを仮説化したものである。
次に、作業仮説として以下を挙げた。
1-1 安心感と信頼感は、対の概念であり、負の相関関係にあるだろう。
2-1 安心感を持っている人は、ネットワークの形成・維持について、コストを感じているだろう。
2-2 ネットワーク形成・維持についてコストを感じる人は、狭いネットワークを築いているだろう。
2-3 ネットワーク形成・維持についてコストを感じる人は、強い紐帯へアクセスすることを好み、弱い紐帯へあまりアクセスしないだろう。
3-1 信頼感高群は、ネットワーク形成に関するコスト感覚について、弱くなる、すなわちあまりコストを感じていないだろう。
3-2 ネットワーク形成・維持についてコストを感じない人は、広いネットワークを築いているだろう。
3-3 ネットワーク形成・維持についてコストを感じない人は、弱い紐帯へアクセスすることを好み、強い紐帯へあまりアクセスしないだろう。
その結果、パーソナルな信頼感が人間関係の維持に、一般的信頼感が人間関係の新たな形成に役立っていることが分かった。さらに人間関係の維持と人間関係の形成のそれぞれがネットワークの多様性に対して影響することがわかり、信頼感が社会的ネットワークに対して重要な役割を持っていることとなり、山岸の「信頼の解き放ち」を支持する結果となった。従来言われてきたこととは異なり、この解き放ちには人間関係の維持・形成にかける心理的な負担の低減がクッションとなって機能していたという点は注目すべきである。
一方で、安心感はネットワークの多様性を妨げることがわかり、信頼感と安心感が対の概念である可能性が示されたが、安心感を示す尺度が不安定であったため、一貫した結果は得られなかった。信頼感についての研究はある程度行われてきたが、今後は安心感が何を指すのか、安心感がもたらすものが何なのかについてより研究が進められるべきである。