就職活動を通した大学生の就業意識の変化

欒 溯

目的
終身雇用や年功序列の崩壊、更には団塊の世代の大量退職や少子化など、現代の日本における労働市場は大きな転換点を迎えているといえる。新卒入社の3割が3年以内に会社をやめてしまうという本が売れる一方、安定志向的な職業観を持つ若者は、依然として多い。大事なことは、自分の適性と会社側のニーズがマッチしていることではないだろうか。大学生の初職研究においては、業界・職種などの多様性を考慮することが非常に重要だが、これまでの質問紙を用いた研究では十分に考慮されているとはいえない。また、就職活動の過程や、選択基準の優先順位変化などのきっかけとなった情報源についても、より詳しく調査する必要がある。今回はこれらの問題点を解決するために、半構造化面接を用いた大卒者就職活動の研究を行った。
 
RQ
新卒の大学生が、就職活動の過程の中で、どのように企業の情報を処理し、影響を受け、選択基準が変化したかを、個人的要因との交互作用も含め検討する。
 
 方法
サンプルは2008年就職予定の女子大学生13名、男子大学生2名。また、企業側からた就職活動について情報を得るため、一般企業の人事担当の方2名にインタビューを行った。エントリー数や個人特性に関する質問紙に回答してもらった後、半構造化インタビューを行った。
 
 結果・考察
l         企業の伝えたい情報と、学生の知りたい情報には様々なズレがあり、それらは就職活動のみならず、入社後のミスマッチを引き起こす原因となりうる。
l         就職活動におけるインターネットの重要性は増してきているが、対人コミュニケーションを通じたソフトな企業情報が、就職活動を円滑にするために非常に重要である。
l         年齢を重ねるにつれ、身近なものや憧れの職業に限定されていた職業認知が広がり、職業認知の現実性が増す(高綱、2001)ように、大学生の就職活動でも、3年生の秋の段階では、日本の一般企業よりも採用開始時期が早い、マスコミや外資系コンサルティングなど、特定の業界に人気が集中する傾向があるが、当然それらの業界に内定できる人は極一部に限られる。そこで多くの人が、最初の志望業界・企業とは結果的に違うところに内定することになる。そこに生じる様々な心理的葛藤や、不協和をいかにして解消・納得しているかに注目すると、多くの人に共通しているのが「人」をポイントに挙げていることであることに気づく。実際、消極的な志望業界や企業の変化を経験し、内定企業が初めの志望企業と異なる9人のうち6人が、内定受諾の決定因の中に、社員の影響を挙げていた。

 

l         たとえ消極的な志望業界の変化を経験しても、それが「人」をきっかけとするものであれば、後付けではあるかもしれないが、その企業に対するイメージや好感度は上がり、就職活動の満足度を高めることになる。一方企業の側から見ると、就職活動生が「人」をきっかけに働くイメージを具体化させているということは、RJP(realistic job preview)の有効性を示唆すると考えられる。RJPを通じて、就職活動生が始めに漠然と抱いていた職業観を、具体的なものに塗り替えることができれば、近年問題となっている離職率低減などに対して効果が期待できると考えられる。

l         最適化―満足化志向と受けた会社の数は、ある程度の相関を持ちながらも、様々な要因が絡み、会社を絞り込む時期に影響を与えている。
 
l         今後は、今回のサンプルの縦断的な調査や、男性・他の大学の学生からもサンプルを取るなど、より一般化可能な調査をすることが必要である。