被服行動はどのような心理的特性を表しているのか

鈴木里美

被服行動とは、外見を着飾り装う行為である。この行為は他者を意識したものであり、対人関係において重要な意味を持っている。すなわち被服行動は対人ネットワークの中で展開される対人関係であるといえるが、他者のみならず自己に対しても有意味な社会的影響を与えていて、それゆえに被服の社会心理学的側面の理解は重要な研究課題となるという高木(2001)の指摘もある。神山(1996)によると、被服行動には「自己の確認・強化・変容」機能、「情報伝達」機能、「社会的相互作用の促進・抑制」機能があるが、いずれにおいても自己のあり方というものが密接に関連していると考えられる。つまり、被服行動とは他者に対して自分をどのように着飾って見せるかが重要であり、ここに自己というものが深く関連しているものと考えられる。中村(1990)によると「自己」に関わる一連の現象的過程を「自己過程」と捉えることができるという。そこで中村(1990)は一重に自己過程といっても、4段階の自己過程(T「自己の姿への注目」、U「自己の姿の把握」、V「自己の姿への評価」、W「自己の表出」)に区分され、それぞれに持つ意味合いが異なってくるという。そうすると、被服行動は各段階において、異なる関連をしているものと自然な流れであろう。そこで本研究では中村(1990)による自己過程の区分を参考にしながら、個人がファッションに対して持つらしさ、女性らしくありたいか、自分らしくありたいかという価値観のいずれの価値観を持っているときにどのような服装を選択するのか、さらにはどのような心理的変数、特に自己に関連するものによってそれらの価値観が形成されているのかを検討した。

仮説としては

自分のファッションに関して女性らしさを重視している人ほど、コンサバ系の服装を選択する傾向がある、一方で自分らしさを重視している人ほど、カジュアル系の服装を選択する傾向がある

を中心として調査を進めた。

調査は質問紙による学生調査で、大学の講義中に行い、女性266名からデータを収集し、条件にあった171名を分析対象とした。ただし、本研究では対象者を女性に、服装の系統を「女性らしさ」と「自分らしさ」に限定して調査を行った。分析結果から、自分らしい服装を選択している人と比べて、女性らしい服装を選択している人ほど公的自己意識、私的自己意識、自己呈示、外的他者意識、被服関心などが高いことが示唆された。また、自分のファッションに関して女性らしさを重視している人ほど、コンサバ系の服装を選択する傾向が見られたが、一方で自分らしさを重視している人だからといってカジュアル系の服装を選択する傾向があるわけではなかった。さらに探索的にではあるが、らしさに関する価値観がどのように形成されているのか回帰分析を利用して検討した。結果としては、自己意識に関連する心理的変数は直接価値観を形成するか、間接的に外的他者意識を通して被服関心を高め価値観を形成するかして、実際の服装選択に効果を与えていた。

以上の結果をまとめると、女性らしさの追求に重点を置くのか、それとも自分らしさに重点を置くのかによって、女性のファッション選択に大きな違いが生じることが示唆された。また、それらの価値観は公的自己意識や私的自己意識などの自己に関するとらえ方と、それらの影響を受けて育まれた外的他者意識や被服行動などの他者に対する、または他者を意識した心理的特性などを通して形成されていることがわかった。

ただし、服装選択に関する測定において研究者側の前提が完全に支持されなかったことなど、まだ問題点は多い。服装選択の測定に関しては、出版社と協力して大規模な読者調査などを実施して各雑誌が持つ特徴を捉える、または実際の回答者の服装を第三者に判断してもらうなどの工夫をして、より適切な回答者の服装傾向の測定法を考えていく必要があるだろう。

服飾の研究において、本研究のように被服選択を系統的に調べたものは少ないが、被服行動はパーソナリティ情報のみならず、個人の感情、価値観、信念、態度など多様なものが複雑に絡み合って行われるものであるといえる。そのため服装の系統と心理的特性の関係を調べることは意義深いものといえる。このように本研究では被服行動を左右する価値観の一部に迫ったが、今後は社会心理学のみならず、社会学やデザイン学などの知見も加味した上でこれらの価値観に迫っていくことを通して、被服行動に関する更なる包括的理解を深めていくことが課題である。