インターネット上の口コミ情報における,匿名性と専門性が信頼度・購買意欲に及ぼす影響
芦川あゆみ
口コミ情報は消費者の購買行動に重要な影響を与えるが、中でも近年影響力を増しているインターネット上の口コミ情報に着目して、その影響力に与える要因を検討した。
インターネット上の口コミでは、従来の直接相手と対面した状況での口コミと異なり、相手をコントロールすることが難しく、裏切られる可能性も高いため、信頼性という要因が重要な意味を持つ。信頼性を判断するために、制度や他人の評価など外部からの根拠が有効なこともあるが、そのような根拠が不十分なときに、私達は何を基準として情報の信頼性を判断するのだろうか。そこで匿名性と専門性という二つの要因に注目して、以下の仮説を立てた。
1)インターネット上の口コミ情報は、匿名性評価が低いほど、信頼性評価が高くなる
2)インターネット上の口コミ情報は、専門性評価が高いほど、信頼性評価が高くなる
3)信頼性評価が高いほど、口コミ情報内の商品に対する受け手の購買意欲を高める
4)商品の価格帯に関わらず、匿名性評価と専門性評価は信頼性評価に影響を与える
5)商品の価格帯に関わらず、信頼性評価は口コミ情報内の商品に対する購買意欲に影響を与える
これらの仮説を検証するために、株式会社クロス・マーケティングに依頼し、2008年11月4日から11月5日にかけてオンライン上の質問紙調査を行った。対象者は、首都圏(一都六県)に居住する20〜59歳の男女300人とした。専門性「高」「低」×匿名性「高」「中」「低」の6条件の調査票を用意し、口コミ情報を含む刺激画像によって条件の操作を行い、その他の質問項目は全て同じとした。
結果は、全ての仮説を支持するものであった。匿名性評価と専門性評価はいずれも購買意欲に直接の効果は持っていなかったが、信頼性評価を媒介して購買意欲に間接的な影響力をもっていることが確認された。また、商品の価格帯に関わらず、信頼性評価と購買意欲の間には高い正の相関が確認され、インターネット上の口コミ情報において信頼性が持つ影響力の大きさを改めて示す結果となった。
本研究の問題点として、匿名性条件間で匿名性評価の高さに差が見られず、匿名性操作が失敗したことが挙げられる。むしろ、パソコン利用年数が10年以上の人に限っては、情報発信者のプロフィールを公開するほど信頼性を低く評価するという結果が得られた。パソコン利用年数の長い人の方が匿名性評価の影響力が大きく、パソコンを長く利用するほど匿名性に敏感になり、匿名性を1つの判断基準として信頼性を評価するようになっていくのだと考えられる。
今後は、情報の形態によって匿名性と専門性の効果に違いがあるかどうか、また,商品の種類によって信頼性評価・購買意欲に影響力をもつ要因に違いがあるかどうか,といったことも検討しながら、消費者の情報探索過程も含めてより現実の場面に即した形で、口コミ情報の影響力を考えていく必要があるだろう。