環境リスク認知・対処有効性認知が環境配慮行動に与える影響

日比谷美貴

 今日、環境問題は深刻になっている。人々はそのことを認識しているにも関わらず、実際に環境配慮行動を積極的に行うには至っていない場合が多い。このように、認識と行動の間にギャップがあるのは、環境問題が持つ社会的ジレンマ的な構造が原因であると考え、その上でそのような構造を持つ環境問題に対して環境配慮行動を促進させる要因は何か、というリサーチクエスチョンを立てて本研究を行った。環境問題を、有限資源の全体的な保全と個別的な消費の対立により起こる資源枯渇型環境問題、共有財としての環境の汚染防止と個別の廃棄との対立により起こる感汚染型環境問題の2種類に分類した上で、環境配慮行動を促進させる要因に関して、先行研究を参考に以下のような理論仮説、作業仮説を考えた。

理論仮説
環境問題に対する当事者意識を高めることで環境配慮行動が促進される。

作業仮説
1.環境リスク認知(問題に関する脅威の認知)によって、当事者意識が高まる。
2.対処有効性認知(自己効力感の認識)によって、当事者意識が高まる。
3.当事者意識が高まることによって、環境配慮行動を行う。
4.資源枯渇型環境問題に対する当事者意識を高めるためには、環境リスク認知の効果の方が対処有効性認知の効果よりも大きい。
5.環境汚染型環境問題に対する当事者意識を高めるためには、対処有効性認知の効果の方が環境リスク認知の効果よりも大きい。

 これらの仮説を検証するために、2008年11月に、神奈川大学の大学生を対象に質問紙実権を行った(有効回答数156)。
 作業仮説1〜3を検証するために行った階層的方法による重回帰分析の結果、資源枯渇型環境問題、環境汚染型環境問題共に、環境リスク認知によって当事者意識が高まり、当事者意識が高まることによって環境配慮行動実行意図、環境配慮行動実行意図比較が高まっていることが示され、仮説は支持された。
 また、作業仮説4〜5を検証するために尤度比検定を行ったところ、資源枯渇型環境問題においては、環境リスク認知の効果と対処有効性認知の効果の大きさに有意な差は見られず、環境汚染型環境問題においては、環境リスク認知の効果の方が対処有効性認知の効果よりも有意に大きいという結果が得られ、仮説は不支持であった。このような結果が得られた原因としては、環境汚染型環境問題として取り上げた環境配慮行動の実行コストが高く認知されていたために対処有効性を感じても実行に至るまでの効果を持たなかった可能性が考えられる。
 今後の研究では、実験の手続きを見直し改善すると同時に、環境問題の分類の仕方も今回とは別に、配慮行動の実行コストによる差を見るなどすることで本研究の知見がより精緻化されることが望まれる。