リスク管理情報に対する信頼・安全性意識を高める要因
小林幹誠
どのようなリスク管理情報が信頼を得られ、安全と言う判断ができるようになるのか。それは製品によって変わるのか。さらにリスク管理情報に対する信頼や安全性意識を高める要因は何か。これらを明らかにすることが本研究の目的であった。
本研究では、既存の食品添加物と未導入のクローン牛という二つの製品を取り上げた。理論仮説・は、食品添加物では管理体制を強調した情報が、クローン牛では誠実さを強調した情報が最も信頼性と安全性意識を高めると考えた。その結果、食品添加物では誠実さ強調群が統制群よりも有意に安全性意識が高く、クローン牛では、誠実さ強調群と管理体制強調群が統制群よりも有意にリスク管理情報に対する信頼が高かった。理論仮説はクローン牛のみ一部支持されたと言える。誠実さや管理体制を強調したとしても、必ずしも信頼されたり、安全だと判断されたりするとは限らないということがわかった。
理論仮説・は、リスク管理情報の信頼度や安全性意識を高める要因として、新しい技術であるクローン牛には目的に対する共感度が影響するが、既存の食品添加物には目的に対する共感度は影響を与えないだろうと考えた。その結果、条件をダミー変数として考えた場合、安全性意識において仮説・は支持された。デフォルトとして存在している食品添加物に関しては、目的に共感できるかどうかにかかわらず受け入れざるを得ないということが影響していると考えられるが、未導入の技術であるクローン牛に関しては、目的に共感できるかという価値判断が第一にあり、その上で管理能力や誠実さの評価がなされるのではないかと考えた。これらの結果から、新しい技術を導入する際に安全であることをアピールする技法として有効なコミュニケーションは主要価値類似性モデルに依拠したものであると考えられる。
追加分析として、買い物スタイルの違いによってリスク管理情報に対する信頼がどのように異なるのかを検証した。普段の買い物の際に、成分表示などの確認作業をする人ほどリスク管理情報に対する信頼が高まるだろうという仮説を立てた。その結果、食品添加物でもクローン牛でも統制群のみ確認作業をする消費者が情報に対する信頼を高めるということがわかった。統制群のみ効果があったということは、誠実さを強調した文章や管理体制を強調した文章を読むことで、普段の買い物スタイルに影響を与え得るということを示唆していると考えられる。この結果を受けて、条件と主成分の主効果を調べた。その結果、第一主成分と管理体制強調群で交互作用が有意となった。つまり、普段の買い物の際、生産地などを確認しない人は管理体制を強調した文章を読んでもリスク管理情報に対する信頼は低いが、確認をする人は管理体制を強調した文章を読むことで信頼は高くなる。一方で、統制群と誠実さ強調群では、確認しない人が信頼が高くなるのに対し、確認する人は逆に信頼が低くなった。
全体を眺めたとき、本研究では食品添加物とクローン牛で一貫した違いを示せなかった。条件文による操作が上手くいかなかった可能性とゼロリスクを求める消費者像が露骨に現れたことが原因として考えられる。今後の展望として、買い物スタイルの違いをより詳細に調べた上で、その違いによって信頼の仕方がどのように異なるのかという方向で研究は進めるべきであろう。