コミュニケーション及びメタ認知・視点取得が同調行動に及ぼす効果

長崎恭子

 集団思考の原因とされている同調行動の抑制方法を検討するため、質問紙による調査研究を実施した。前回の研究で、集団外部とのコミュニケーションが、同調行動を抑制することが分かったので、それを踏まえ、集団内外における個人のコミュニケーションが具体的にどのように同調行動抑制に効果を及ぼすかを検討した。その際、所属集団の種類を統制するため、調査の対象を、仕事をしている社会人に絞り、職場環境が、各変数にどのように影響を及ぼすかも検討した。
理論仮説は、コミュニケーションの同調行動に対する影響は、自己と他者への理解力(メタ認知力と視点取得力)に媒介される、コミュニケーションの性質によって、メタ認知力と視点取得力への影響が異なる、メタ認知力と視点取得力は、緩衝変数によって、同調行動への影響が異なる、という3点であった。
 重回帰分析と共分散構造分析の結果、仮説は概ね支持されることが分かった。
コミュニケーションは、メタ認知、視点取得を媒介して同調傾向を抑制することが分かった。視点取得の影響力は大きくなかったが、メタ認知の影響力は顕著であった。
 また、コミュニケーションを取る相手の価値観が自分と同じか、異なるかというコミュニケーションの性質によって、コミュニケーションがメタ認知と視点取得に及ぼす影響は異なることが分かった。価値観の異なる人とのコミュニケーションの方が、価値観の同じ人とのコミュニケーションよりも、メタ認知と視点取得に対しての効果が大きかった。また、価値観の同じ人とのコミュニケーションは、メタ認知には大きな影響力を示したが、視点取得に対する影響は相対的にはあまり大きくなく、逆に、価値観の異なる人とのコミュニケーションは、メタ認知に与える影響よりも、視点取得に与える影響の方が大きかった。
 そして、発話傾向、職場での人間関係、仕事の裁量、認知欲求によって、メタ認知が同調傾向を抑制する効果が異なった。発話傾向が大きいほど、職場での人間関係が良いほど、認知欲求の度合いが大きいほど、メタ認知の効果は大きくなった。本研究の問題点としては、同調行動を規範的影響によるものと、情報的影響によるものに明確に分類できなかったことがあげられる。重回帰分析での傾向の比較や、共分散構造分析の結果から、メタ認知は情報的影響によるものよりも、規範的影響による同調行動を抑制する傾向が見受けられたが、課題は残る。