介護受容に対する態度へ心理学的要因がもたらす影響の検討

田辺彩子

 我が国における高齢化はとどまることを知らず、要介護者数も急速に増加している。核家族化、女性の社会進出・晩婚化、少子化等といった種々の要因を背景として、高齢者介護を誰が担うかは、現在重要な社会問題となっており、在宅介護と施設介護、バランスよく両者をうまく利用するための研究、制度整備を行っていくことが、今後ますます必要となってくると考えられる。これまでの議論は、「介護者」の視点からなされているものが多く、介護を受けるお年寄りの立場に立ってなされた研究は少ない。また、そのニーズや主体性が、いったいどのようなものなのであるのか、実証的に研究を試みた例も少ないといえる。介護を行う者だけでなく、介護される高齢者の持つ態度もそのサービス利用意図を左右する可能性があることを考えると、被介護者の視点に注目して研究を行うことには意義があるといえるだろう。よって本稿では、介護受容態度に与える、心理学的な要因の効果を検討することを目的とした。

 先行研究のレビューから、介護に関しては、ソーシャルサポート、家族介護意識、家族機能などとの関連で、特に議論がなされていることがわかった。その上で、「家族に迷惑をかけてしまう」という心理が、援助としての家族介護を望むかサービスとしてのフォーマルな介護を望むか、という選択過程において、一つの重要な要素となるのではないかという予測をもとに、心理的負債感・Locus of Controlに注目をした。
また、高齢者が口にする「本当は家族に面倒をみてもらいたい」という心理がなぜ生まれるのかについて検討するため、前出の家族介護意識とソーシャルサポート、そして親和動機を取り上げ、その心理過程を検証することとした。具体的には、親和動機が強く情緒的サポートを重視する者は家族介護に固執する傾向、逆に、心理的負債感が強い者、またLocus of Controlが内的統制傾向にある者は、迷惑をかけたくないという心理や自己統制感への脅威から、フォーマルな介護を望む傾向にあるという予測をたてた。また同様にして、家族機能の大小と家族介護意識の影響も見ることとした。なお調査は2008年10月〜11月にかけて行われ、その対象は埼玉県戸田市に在住する20〜70歳の男女であった。郵送調査によって得られた有効回答数は331票、有効回収率は41.793%であった。

 分析の結果、「高齢者は家族で介護するのが望ましい」という家族介護意識が強い者は、自分の介護も家族に望む傾向があることが示された。また、この傾向は男性に強く見られた。心理的負債感を強く持つ者は、フォーマルな介護受容に対してより好意的である傾向が認められ、「迷惑をかけたくない」という感情が働いている可能性が示唆された。この傾向は、高齢者ほど強かった。一方、Locus of Controlは介護受容への好意に対して直接効果を持っていなかった。ただし、交友的サポートへの希望度を高めることを通じて、フォーマルな介護への好意に影響を持っており、間接の効果を持つことが示唆された。なお、Locus of Controlや心理的負債感は、自分が介護する立場として考えた場合に、「家族で介護すべきだ」という意識を強める効果を持つ可能性が考えられた。
親和動機は、その好意度を高める意味で、サポートの種類等に関わらず、介護受容態度に大きく影響をもつ要因であることがわかった。この心理が、特に女性において強いことも示された。家族機能に関しては、尺度に欠陥があると考えられるため、その影響は十分に検討されなかった。
さらに、それぞれ誰にどのようなサポートを望んでいるのかということについて、家族介護に固執する理由は情緒的サポートを家族に強く望んでいるためだという予測は支持されず、むしろフォーマルとインフォーマル、それぞれに期待されるサポートの大きさには、さほど違いがないことが示された。特に、同居家族・親族と介護専門職における希望度の違いはほとんど見られず、両者はたがいに代替可能であることが示唆された。また、これらの希望度の大きさは、最終的にフォーマルな介護を好ましく思うか、家族介護を望ましく思うか、という態度に対してはさほど影響を持っていないことも示唆された。

 調査の性格上検討することのできなかった点やいくつかの課題を踏まえ、その方法や尺度についての新たな吟味・修正を加えた上で、本研究において明らかになった心理的要因と介護受容態度との関連について、今後さらに考察がなされていくことが望まれる。