企業の社会貢献活動がブランドイメージに与える影響

田中ひろみ

 近年、企業の社会貢献活動への関心が高まっている。それにも関わらず、企業の社会貢献活動は順調に増加しているわけではない。理由として考えられるのは、コストがかかり、金銭面に余裕がある企業以外は実施が困難であること、またコストがかかる割に得られるメリットが不明確であることが考えられる。そこで本研究では「企業に広く根付きやすい社会貢献活動の要素は何か」を明らかにし、またその要素を取り入れた具体的な社会貢献活動のモデルの有効性を検討した。
 先行研究によると、社会貢献活動にコストをかけることで、社会貢献活動に積極的だと思われ、ブランドイメージを向上させ、購入意向を高めることができる。しかし、社会貢献活動に高いコストをかけることで同時に、偽善認知が高まり、また、割安感も低下するために、ブランドイメージ・購入意向が上がるとは必ずしも言えないと予測できた。よって、高いコストがかかる、企業が独自で行う自主プログラムの社会貢献活動や余剰資金の寄付では、かけるコストに比べてメリット、すなわちブランドイメージの向上や購入意向の高まりが得られるかどうかが不明確であると考えられた。他方、コスト高低に関わらず、製品購入を通して企業の社会貢献活動に参加できていると感じられるほど、ブランドイメージや購入意向は高まるのではないかと予測できた。
 以上から、低コストで消費者の参加感の高い社会貢献活動が、ブランドイメージや購入意向を高めるというメリットも得つつ、低いコストで行うことができ、広がりかつ持続しやすい社会貢献活動なのではないかと予測することができた。 以上述べたことを踏まえ、低コストかつ参加感の高い社会貢献活動の一例として、現在、日本財団が考案中の社会貢献活動のモデルの有効性を検討した。
 提示する情報が異なる3種類の調査票をランダムに送ることで、回答者をランダムに、統制群(製品情報のみで社会貢献活動情報を提示しない)、独自群(製品情報と自主プログラムの社会貢献活動情報を提示)、支援群(在庫製品の販売によって公益団体を支援する財団法人が考案中の社会貢献活動情報を提示)の3群に分け、社会貢献活動の種類を独立変数として操作し、被験者間要因で検証した。調査はインターネット上で行い、回答者は300人であった。
 結果、予測通り、社会貢献活動にコストがかかっていると消費者から認知されるほど、社会貢献活動に積極的だと思われ、ブランドイメージは向上し、購入意向を高められるがその一方で、偽善的だと思われ、ブランドイメージを下げてしまい、購入意向を低くしてしまうことが分かった。また予測に反し、「社会貢献活動に高いコストをかけているということは、そこにコストをかけなければより安い値段で製品を販売できるはずだ」という認識は消費者は持っていないということ、参加感は購入意向は直接的に高めるが、ブランドイメージには影響を与えないということが分かった。以上のパスモデル検討からは、予測通り、低コストで参加感の高い社会貢献活動が、ブランドイメージ・購入意向を高めるのではないかと考えられた。
 しかし、分散分析の結果、ブランドイメージ・購入意向について3群間に実質有意差はなかった。さらに支援群においては情報提示前に比べ、情報提示後のブランドイメージと購入意向が有意に下がったという結果になった。
 原因として、一つは、仮説で予測した以上に偽善が与える負の影響が大きかったという可能性が考えられる。
 もう一つ、偽善以外に、統制群にはなく、独自群と特に支援群に、
ブランドイメージと購入意向を下げる要素が存在していたとも解釈でき、以下の6項目が考えられた。
1、消費者は製品を定価で購入したくない
2、消費者はインターネット通販で購入したくない
3、販売主体が製品製造企業でないことに不信感を抱いた
4、サイトの作りの印象が悪い
5、支援群の社会貢献活動の内容が分かりづらい
6、お金の使用用途が不明で不信感を抱かれた・活動成果が明確でない
 また、今後、社会貢献活動が根付いていく上で、「偽善と認知され、ブランドイメージおよび購入意向を下げてしまう」という問題をどのように解決していくかが重要な課題になると考え、偽善認知によって、1〜3と回答した回答者を低群、4〜6と回答した回答者を高群として、分析を行った。その分析から主に以下のことが推測できた。
1、調査以前の段階で企業に対して抱いているイメージが良いと、社会貢献活動情報を提示しても、偽善だという認知が低くなる。
2、イメージアップ以外に企業へのメリットがあるということが明確な方が、偽善的だと思われにくい。
3、偽善だと考えている人の方が、社会貢献活動に費用をかけるよりも製品を値下げすべきだと考える傾向がある。
4、経済的に余裕がある方が、社会貢献活動に対して偽善と思わないという傾向がある。
5、偽善認知が高い場合は、社会貢献活動に積極的であってもブランドイメージを向上させることができない。
6、偽善認知が高い場合にも、参加感が高ければ、購入意向を高めることができ、
  また、偽善認知が低い場合には、参加感が高いか否かは関係がない。