消費者のメディア利用が購買行動に与える影響:培養理論における主流形成効果の観点から

梅田望

 本研究は、Gerbner(1986)の培養理論における、マスメディアの主流形成効果を、多様化するメディアの動向を踏まえ、「テレビ」、「新聞」、「雑誌」、「インターネット」、「携帯電話の情報サービス」の5種類のメディアを用いて検討することを試みた。また、意見分布の認識に影響を与える「第一次培養効果」ではなく、今まで扱われることの少なかった、信念や態度に影響を与える「第二次培養効果」を検討するために、消費ニーズに関する指標を用いて主流形成効果の有無を検討した。企業が行った調査データ(回答者数3733名、平均年齢41.7歳、男性51.6%女性48.4%)の二次分析を行った。本研究の目的は二つあり、まずは、従来の研究ではマスメディア接触量の指標として代表的なテレビが用いられてきたことに対し、近年のメディアの多様化を踏まえて、テレビ以外のメディアをも含めた上でメディア接触量が主流形成の効果をもつかどうか検討することである。次に、培養理論研究の中であまり対象とされてこなかった消費行動を取り上げることで、マスコミュニケーション研究と消費者行動研究の交差する機会を設け、有用な知見を提供することである。
 まず、メディアに分類が生じるのではないかという予測の元に、確証的因子分析を行うためメディアの因子構造に関する仮説を立てた。

仮説T メディアの利用状況は二因子構造に分類される。一つはテレビ、新聞を中心とする因子であり、もう一方はインターネットを中心とする因子である。

次に、仮説Tを踏まえたうえで、本研究での中心となるマスメディアの主流形成効果に関する仮説を立てた。

仮説U テレビ・新聞などのメディア接触量が多いほど、消費ニーズが主流に近くなる(主流形成効果)

仮説V インターネットなどのメディア接触量が多いほど、消費ニーズが主流から遠ざか る(主流形成効果の逆)

 その結果、5種類のマスメディアが2つのタイプに分類可能であり、一方のテレビと新聞の接触量で測定される因子は主流形成の効果を持ち、もう一方のインターネットと携帯電話の情報サービス、雑誌の接触量で測定される因子は反対に主流から遠ざける効果を持つという結果を得た。
 よって本研究では、あらゆるマスメディアが主流形成の効果を持つのではなく、先行研究で取り上げられてきた「テレビ」と共通性の高いメディア(本研究では新聞)が主流形成の効果を持ち、そうでないメディア(インターネットなど)は正反対の効果を持つことが示された。このことは、扱うメディアをテレビに限定してしまっていた先行研究の知見を拡張するものであり、さらに現代の多様化したメディア環境ではメディアは皆同じ効果を持つのではなく、それぞれが固有の効果を持っているという可能性が推定された。