対人不安はなぜ生じるか?〜自己内省・自尊心特性や自己意識感情スタイルとの関係から〜

吉田壮志

[理論仮説・‐b]
“特性自尊心の高さによって、社会的状況での自己意識感情スタイルが異なってくる”
[作業仮説・-b]
・特性自尊心が低い人は、失敗場面で恥・罪悪感を強く経験しやすい
・特性自尊心が高い人は、失敗場面での出来事を外的帰属しやすい
・特性自尊心は、失敗場面での無関心には影響しない

[理論仮説・-c]
“自己内省特性と特性自尊心には、自己意識感情スタイルに対して交互作用効果が存在する”
[作業仮説・-c]
・特性自尊心が低い人にとって、自己内省特性が高いことで、失敗状況で経験する恥が強まる
・特性自尊心が高い人にとって、自己内省特性が高いことで、失敗状況で経験する恥が弱まる
(図2参照)
・交互作用効果は、他の3つの自己意識感情には影響しない

[理論仮説・]
“社会的状況での自己意識感情スタイルによって、社会不安傾向の高低が異なってくる”
[作業仮説・]
・「恥」は、(SIA/SPともに)対人場面での不安傾向を強める
・「罪悪感」は、(SIA/SPともに) 対人場面での不安傾向を弱める
・「無関心」は、(SIA/SPともに) 対人場面での不安傾向に影響を与えない
・「外的帰属」は、(SIA/SPともに) 対人場面での不安傾向を強める

[理論仮説・-a]
“自己内省特性の高さによって(直接的に)社会不安傾向が異なってくる”
・自己内省特性の高さは、SIAに直接的に影響しない
・自己内省特性が高い人は、対人場面での不安傾向(SP)が高い
[理論仮説・-b]
“特性自尊心の高さによって(直接的に)対人場面での不安傾向が異なってくる”
・特性自尊心が低い人は、(SIA/SPともに)対人場面での不安傾向が高い

・罪悪感と恥という2つの自己意識感情の区別は、失敗状況での出来事を「特定の行動」に帰属するか「全体的自己」に帰属するかというところにある。しかし、両者は失敗状況での出来事を内的に帰属する点において共通する要素を持つため、連続的に変化する2つの感情であると捉えることもできる。本研究では、自己内省特性の高さは、失敗状況で経験する罪悪感を強める傾向は見られるが、それだけでは恥感情を強める主効果は見られないという結果が得られた。罪悪感を超えて恥の感じやすさを強める要因は、自己内省特性×特性自尊心の交互作用効果であった。つまり、低自尊心者にとっては自己内省特性の高さが、「自分は何て悪いことをしたんだ」という罪悪感を超えて「自分はなんてだめな人間なんだ」と恥を強く感じることに影響する。逆に、高自尊心者にとって自己内省特性が高いことは、自分自身を責める感情反応を抑え、自分のとった行動を適切に省みるという罪悪感を経験するにとどまるというわけである。

・失敗状況での恥の感じやすさは、対人交流に対する不安・他人から見られることに対する不安を高める、また失敗状況での外的帰属のしやすさは、対人交流に対する不安を高めることがわかった。自己内省特性には、当初想定していたような恥感情を高める効果や、他人から見られることへの不安を(直接的に)高める効果はなかった。このような効果を持つのは、自己内省特性というよりは、同じ自己注目でもよりネガティブな自己状態に注目しやすい特性である自己反すう特性であることがわかった。

・特性自尊心が低い人は、失敗状況での恥の感じやすさを経由することで対人場面全体での不安を強く経験するが、一方で特性自尊心が高い人もまた、失敗状況での外的帰属のしやすさが対人交流に対する不安に結びついている、ということが指摘できる。また、このような社会的状況を介さずとも、特性自尊心の低さは対人場面の不安傾向の高さと結びついている。