「やさしさ」に関する価値観とリスク回避傾向がTwitter利用に与える影響

橋本有葵

 本研究では、マイクロブログサービス「Twitter」の利用と、「やさしさ」の価値観との関連について検討した。

 近年、マイクロブログサービスと呼ばれるウェブサービスの利用者が急増している。Twitterをはじめとするマイクロブログサービスは、ブログよりも簡単に投稿でき、他のユーザーとほぼリアルタイムにコミュニケーションと取れることが特徴である。とくに、Twitterが従来のウェブサービスと異なる点として、「ゆるい」つながりを作るメディアであるという点が挙げられる。基本的には特定の相手に向けていない、「つぶやき」という形式の投稿のため、相手とのやりとりにプレッシャーを感じることなく相手の存在を感じられる点や、投稿字数の制限によって深く掘り下げた内容の話がしにくい点によって、「ゆるい」つながりが作られていると考えられる。「ゆるい」つながりを望む価値観は、精神科医の大平が指摘した「ウォームな」やさしさと関連があると考えられる。ウォームなやさしさは、相手を傷つけず、お互いの気持ちに深く立ち入らないことを良好な人間関係だと捉える。一方の「ホット」なやさしさは、相手と積極的に関わることで良好な人間関係を作ろうとする。お互いに傷つけあうことを避けるウォームなやさしさへの支持は、コミュニケーションにおけるリスク回避傾向と関連があるという知見が得られている。Twitterでおこなわれる「ゆるい」コミュニケーションはリスクの低いものであるため、リスク回避傾向の高いウォームなやさしさを支持する人にとって利用しやすいメディアであるという仮説を立てた。
 また、Twitter上のネットワーク研究により、サービスを利用することの利点として「日常のとこについて話せる点」「情報を探し、共有できる点」という2つが示されているが、この知見が個人のモデルでも当てはまることを確認するために、2009年10月から11月にかけてウェブ上でTwitter利用者を対象としたアンケート調査を行った。有効回答数は152であった。

 分析の結果、ウォームなやさしさへの支持とコミュニケーションにおけるリスク回避傾向には有意な正の相関関係が見られた。これは先行研究の知見と一致するものであり、ウォームなやさしさを支持する人は、ゆるやかな人間関係を作るひとつの戦略として、コミュニケーションにおけるリスクを回避していると考えられる。
 Twitter利用の満足感については、役に立つ情報が得られるという「情報的満足感」と、楽しみを感じる「娯楽的満足感」の2因子が抽出された。情報的満足感については、先行研究での「情報を探し、共有できる点」とほぼ一致すると考えられる。娯楽的満足感については、先行研究の「日常のことについて話せる点」を含む、より多様な利用によって得られる満足感ではないかと考えられる。

 また、ウォームなやさしさへの支持が投稿数を増やし、情報的満足感、娯楽的満足感の両方を高めるという有意な効果が見られた。このことや、ウォームなやさしさへの支持とTwitter利用歴が正の相関関係にあったことから、Twitterはウォームなやさしさを支持する人にとって利用しやすいメディアであると考えられる。
 一方、ホットなやさしさへの支持は、投稿数には影響を与えず、情報的満足感、娯楽的満足感の両方を直接高めるという効果が見られた。また、ホットなやさしさへの支持とインターネット利用歴との間に正の相関関係が見られた。ホットなやさしさを支持する人は、コミュニケーションにおけるリスク回避傾向が低いので、リスクの低いメディアであるTwitterを特に好んで投稿するわけではないが、インターネットの利用歴が長く、自分に必要な情報、興味のある投稿を見つける能力が高い傾向にある、という可能性が考えられる。

 Twitterでは直接やりとりをしなくても相手の存在を感じられるため、他のユーザーとのやりとりは利用の満足感に影響を与えないという仮説を立てたが、この仮説は支持されなかった。分析の結果、やさしさへの支持とやりとり量との間には関連が見られず、やりとりの量は情報的満足感、娯楽的満足感の両方に有意な正の効果を持っていた。やりとり量が情報的満足感に正の効果を持つ点については、自分が必要な情報についてやりとりすることで、より詳しい情報や役立つ情報が得られるためと考えられる。 また、やりとり量が娯楽的満足感にも正の効果を持つ点については、Twitter上での他のユーザーとのやりとりは非常にリスクの低いものであるため、やさしさへの支持と関係なく相手との良好な関係を築くことに役立ち、満足感を高めていると考えられる。 
 今後の課題としては、調査サンプルの偏りを少なくすること、やりとり量の計り方を改善し、やりとりの内容を考慮した分析を行うことなどが挙げられる。